御台本

御台本 - Written by oda

あきらめたはずの思いの先に
【登場人物】 【●性別】 【登場人物の概要】
翔子 女性 糸崎翔子(いとざきしょうこ)。平社員。26歳。社会人4年目。
尚也 男性 飯田尚也(いいだなおや)。係長。36歳。独身。

あらすじ

同僚の翔子と尚也。先輩と後輩。
先に恋をしていたのは?
※「あきらめられない思いの先に」(尚と翔)のお話の逆バージョンとして創作しました。

あきらめたはずの思いの先に

【デパート前 待ち合わせ】
翔子:飯田係長っ、すいません、遅くなっちゃって。
尚也:いいよ、ぜんぜん、俺もさっき来たとこだし。
尚也:走って来たの?
翔子:地下鉄から上がる階段間違えちゃって、
翔子:あっちから上がったんですけど、
翔子:信号点滅してたから、
翔子:走ってきちゃいました。
尚也:よくわかったね。
翔子:もちろん、すぐわかりますよ。
翔子:先輩の今日のスーツも、ステキですね。
翔子:いつも見ないネクタイの色ですし、
翔子:雰囲気がちょっとちがってかわいいですね。
翔子:あー、でも私服も見たかったなぁ。
尚也:はいはい、年上のおっさんをからかってんじゃねぇよ。
尚也:とりあえず、ここのデパート行ってみて、
尚也:なさそうだったら、
尚也:新南口にもデパートあるから。
翔子:はい。
尚也:とりあえず上がって見てみるか?
翔子:そうですね。
翔子:あ、あと、
尚也:どうした?
翔子:高木課長と、西村課長と、高畠主任から、
翔子:お金預かってます。
尚也:あぁ、言ってたな。
翔子:あ、あれ? どこやっちゃたかな。
尚也:おい? ウソだろ?
翔子:封筒、あれ?
尚也:落としたりしてないよな?
翔子:あれ?
翔子:あ、あったあった、こっちのポケットでした。
尚也:糸崎ぃ(いとざき)、あ~もぉ~、
尚也:びっくりさせないでくれよぉ。
翔子:ふふふ、びっくりしました?
尚也:もー、かんべんしてくれよ、今日は。
尚也:そういうのいつもいつも。
翔子:ふふふふ
尚也:からかってんだろ?
翔子:あ、ばれました?
尚也:置いてくぞ。
翔子:あぁ、待ってくださいよ~。
翔子:ねぇ?飯田係長?
尚也:あ、そうだ
翔子:はい?
尚也:係長って言うのやめてもらっとこうかな、
尚也:休日だし、
尚也:飯田、さん?にしといてくれる?今日は。
翔子:あ、ごめんなさい。
翔子:えっと、い、いい飯田さん?
尚也:いいい飯田じゃないからな。
尚也:言いにくそうだな?
翔子:がんばって慣れます。
翔子:えっと、エスカレーターで行きます?
翔子:それともエレベーターにします?
尚也:エレベーターでいこう。
翔子:何階に上がるんですか?
翔子:えっと?
翔子:「贈りもの」とか「おめでたい時」のああいうの
翔子:なんて言うんでしたっけ?
尚也:ここだな、
尚也:ギフトサロンとか、商品券サロン。
尚也:店によっては、贈答品とか書いてあるかもね。
尚也:このフロア。覚えておくといいよ。
翔子:へぇ~。
尚也:まぁ、デパートにもよるから、
尚也:インフォメーションで尋ねるのが間違いないね。
翔子:覚えておきます。
翔子:ここのデパートは、6階なんですね。
尚也:とりあえず、エレベーターそこだから
尚也:上がって店員さんに聞いてみよう?
翔子:はいっ。
尚也:あ、ちょうど、エレベーター来てる来てる。
翔子:(エレベーターの中で)
翔子:それにしてもですよ?
尚也:なに?
翔子:橋本係長と藤本さん結婚するとは思わなかったなぁ。
尚也:そうか?
翔子:はい。だって、
翔子:あそこ、なーんもなさそうに仕事してましたし。
翔子:ぜんぜんわかんなかったです。
尚也:え?みんな知ってたよ?
翔子:え?そうなんですか?
尚也:もう、4年くらい前じゃないかなぁ?
翔子:よ、4年も付き合ってたんですか?!
尚也:よりを戻してからね。
翔子:よ、よりを戻してから4年?!
翔子:え?じゃあ、その前から付き合ってたんですか?
尚也:そうだよ。
尚也:だから、やっとだよ、やっと。
尚也:さっさとくっつきゃいいのに。
翔子:4年前かぁ。
尚也:4年前って言ったら、あ、そっか、
尚也:糸崎は新卒採用で入って来たばっかりの時期だもんな。
翔子:あぁ、だからわからなかったんですね。
翔子:あの二人はああいう感じがデフォルトっていうか、
翔子:今思えば、あー確かに!って感じで仲良いんですけど、
翔子:うちの会社、全体的に仲良しですもんね。
尚也:そうだなぁ。
翔子:高木課長と西村課長のところは、
翔子:夏休みに一緒にこども連れてキャンプ行ってきたって
翔子:言ってましたし。
尚也:そうだなぁ。あそこも確かにそうだな。
翔子:私、不倫してるんだと思ってましたもん。
尚也:仲良すぎて?
翔子:そうですよ!あのパターンは、ダブル不倫?
尚也:ダブル不倫ってなんだよ。
翔子:高木課長の奥さんと、
翔子:西村課長の旦那さんも!とか?!
尚也:見る目あるじゃん?
翔子:え?
尚也:うそだよ。バーカ。
尚也:あそこは健全。
翔子:びっくりしたー。
尚也:さっきのお返し。
翔子:もー。
尚也:6階だ、降りるぞ。
尚也:(エレベーターが6階へ到着する)
尚也:(前の人を少しよけながら)
尚也:すいません、降ります。すいません。
尚也:大丈夫か?
翔子:はい、大丈夫です。
尚也:えっと、確か、
尚也:あれ?
尚也:前来たとき右側にあったような気がしたんだけどな?
翔子:先輩、あっちのギフトってちがいます?
尚也:あー、あれあれ。正解。
尚也:あっちになってたのか。
尚也:えっと、5人分でいいんだっけ?
翔子:高木課長、西村課長、高畠主任、
翔子:飯田係…さんと私の5人分です。
尚也:はい、飯田係さんです。
翔子:ごめんなさいっ!もー。
尚也:んで、いくらずつもらったの?
翔子:高木課長と西村課長は1万5千円で、
翔子:高畠主任は7ですね。
尚也:じゃあ、店員さんに金額伝えて、
尚也:聞いてみれば大丈夫だな。
翔子:はい、わかりました。
翔子:(店員さんに呼びかけて)
翔子:すいませーん、
翔子:ちょっとお尋ねしたいんですが……


【買い物を終えてデパートを出るふたり】
翔子:はぁ~~~。よかった。
尚也:どうしたの?
翔子:30分で用事が終わるとか、
尚也:そんなもんじゃない?
翔子:やっぱり、飯田さんすごいです。
尚也:何回かこういうの経験するとわかるよ。
尚也:まだ、26だっけ?
翔子:はい。
尚也:そのうち、飽きるほどやらされるよ。
翔子:そうなんですか?
尚也:たぶんね。
尚也:だけど、ぜーんぶお願いしたら、
尚也:デパートからちょうどいい日に届けてくれるし。
翔子:そうですね、便利ですね。
尚也:まぁ、こちらのデパートさんはそういう商売を
尚也:昔からされてますから。
翔子:(感心して)はぁ~すごいですね。
尚也:どうするかな?
翔子:どうするって?
尚也:ん~、お昼には早いし。
翔子:ちょっと、休憩しません?
尚也:うん、そうだな。喉乾いたし。
尚也:どこか行きたいところある?
翔子:あぁ、あっちに、
翔子:おしゃれなカフェがあるんですけど、
尚也:いいとこ、知ってんの?
翔子:はい、あっちです。

【カフェ(個室あり)にて】
尚也:へぇ~。
翔子:(店員と対応中)
翔子:2人です。前に来たことあります。
翔子:24番ですね。
翔子:飯田さん、こっち。
尚也:なんかおもしろいね、ここ。
翔子:そうなんですよ、
翔子:もともとカラオケボックスのお店だったのを、
翔子:居酒屋にしたらしいんですけど、
翔子:2年前くらいだったかな?
翔子:改装してこんな感じになったって。
尚也:あぁ、だから個室ばっかりなのか。
尚也:誰かと来たの?
翔子:はい、大学のころの同期と何回か。
翔子:あ、ここです。
翔子:コート掛けます?
尚也:ハンガーもらうよ。
翔子:はい。
尚也:ありがと。
翔子:横並びの席なんで、
翔子:先輩、先どうぞ。
尚也:いや、ここはレディーファーストで。
翔子:いいんですか?
尚也:どうぞ?
翔子:じゃあ、お言葉に甘えて。
翔子:ここのソファやわらかいんで、
尚也:ッあ!びっくりしたー。
尚也:ははは、思ったより沈んだ。
翔子:気を付けてくださいって、
翔子:言おうと思ったんですけど。
尚也:お気づかいありがとう。あはは
尚也:やべぇソファ。
翔子:えっとぉ、
翔子:メニューはこの、
翔子:タブレットから選んでくださいって。
尚也:へぇ~。
尚也:なんか、カラオケっぽいね。
翔子:最近多いですよね、
翔子:タブレットでピッピッってやるメニューのところ。
尚也:あー、確かに。店員さん来なくて済むし。
翔子:飯田さん、
翔子:暑かったり寒かったりないですか?
尚也:ううん、大丈夫。
翔子:エアコンのリモコン、ここにあるんで。
尚也:うん。
尚也:糸崎は?寒くない?
翔子:大丈夫です。
尚也:何飲もうかなぁ。
翔子:なにあります?
尚也:先、見る?
翔子:じゃあ、一緒に見ます。
尚也:ノンアルコールとか、
尚也:コーヒーもジュースもあるよ?
翔子:ん~。
尚也:俺は、カフェオレにしようかな、あったかいの。
尚也:1個、選択っと。よし。
尚也:糸崎はオレンジジュースかな?
尚也:はい、使っていいよ?
翔子:もー。
翔子:なんでキッズメニュー開いて渡すんですか。
翔子:あ、飯田さん?
尚也:ん?
翔子:カフェオレ、甘いの付けます?
尚也:いや、甘くなくていい。
翔子:じゃ、同じのにしよう。
翔子:2つ。お砂糖無しっと。
尚也:(部屋を見渡して)
尚也:あ~、そうかそうか、
翔子:どうしたんですか?
尚也:ドアの名残があるからアレだけど、
尚也:カラオケボックスの少人数席だった感すごいね。
尚也:たぶん、このへんに例のちょっと硬いソファ席が、
尚也:こう、こう、あって、
翔子:カラオケのテレビ画面があっちですよね?
尚也:あの天井の角、スピーカーのネジの跡かな?
翔子:あ、よく見つけましたね。
尚也:スピーカーならもう一か所つけてあったのが……
翔子:あそこの角じゃないですか?
尚也:あれだな、スピーカーつけて音楽鳴ってるのもいいけど、
尚也:あ~、でも音楽が無いほうが、
尚也:静かで落ち着くかも、ここ。
翔子:ですね。
翔子:これで、お祝いも準備できたし、
尚也:鈴木専務に頼まれてた商品券も用意できたし。
尚也:あ、そうだ。
尚也:週明けにさ、メール送っといて?
尚也:今日、お金もらった人に、
尚也:さっきのデパートから送りましたって。
翔子:わかりました。
翔子:飯田係長、CC(シーシー)入れますね。
尚也:良いよ、入れなくて。
翔子:なんでですか?
尚也:俺は今日、休みで来てるから。
翔子:えー、でも。
尚也:一緒に行ったとかになると、
尚也:西村課長に「休日出勤つけなさい!」
尚也:って怒られるから。
翔子:あ~、
尚也:実際、1時間かかってないし。
翔子:わかりました、
翔子:じゃあ、BCC(ビーシーシー)なら良いですか?
尚也:間違えんなよ?
翔子:はい。
尚也:あー、このソファ寝そう。
翔子:ヤバいっすね。
尚也:あーーーーー。
翔子:温泉じゃないんですから、
翔子:もう、おっさんくさいなぁ。
尚也:あーーーーー、もうおっさんです。
尚也:おっさんおっさん。
尚也:あー、ネクタイゆるめよう。あー。
翔子:ねぇ、飯田係長?
尚也:飯田さん。
翔子:すいません、飯田さん?
尚也:あーーーーー、なに?
翔子:先輩って、思ったより、
翔子:ファッションセンスあるんですね。
尚也:思ったよりって余計じゃね?
翔子:うん、思ったより、かっこいい。
尚也:はいはーい、褒めてもなーんにもでませんよー。
翔子:飯田さん?
尚也:なに?
翔子:その時計どこで買ったんですか?
尚也:ベーカリー橋本。
翔子:え? 会社の前のあのパン屋さん、
翔子:時計も売ってるんですか?
尚也:そーなんだよー
翔子:もう、絶対ウソだし。
尚也:昨日の昼行ってなかった?
翔子:行きましたけど……。
尚也:あそこのパン屋な、
尚也:ドーナツの隣に置いてあるんだよ。
翔子:もーー!無いです!無かったです!
尚也:おかしいなぁ。
尚也:ドーナツとピザトーストの並びになかった?
翔子:ないです!
尚也:あ、チョココロネ食ったとき中から出てきたんだった。
翔子:飯田さん!からかいすぎです!
尚也:あははは
翔子:高かったんですか?
尚也:ぜんぜん。安物安物。
翔子:見ていいですか?
尚也:いいよ?
尚也:はずそうか?
翔子:いえ、そのままがいいです、
翔子:(小声で)時計見たいわけじゃないんで。
尚也:なに?
翔子:見てもいいですよね?
尚也:まぁ、べつに…
尚也:いいけど、
翔子:手、動かさないでください。
尚也:な、なんで?
翔子:ちょっとここだけ暗くて
尚也:時計の読み方わかる?
翔子:わかりますー。
尚也:えっとねぇ、
尚也:この短い針が、時間を表していて、
尚也:この長い針が、分を表しています。
尚也:時間っていうのが、
尚也:いちにちを24時間にわけたもので、
尚也:分っていうのが、
尚也:1時間を60にわけたものなんですよ
尚也:この、忙しく動いているのが?
翔子:……。
尚也:そんな、フグみたいな顔すんなよ。
尚也:秒針な秒針。
翔子:すぐバカにする。むぅぅ……。
尚也:もういいだろ?
翔子:飯田係、飯田さんは、お休みの日とか
翔子:どこで買いものするんですか?
尚也:飯田係はね~、
尚也:てきとーにフラフラしてる。
翔子:この時計は?
尚也:駅ビルの中のガチャガチャで、300円とか。
尚也:となりにぐうたら猫とかあってさー。
翔子:(棒)へぇー300円だったんですねーーーー。
尚也:(棒)そーなんですよーーー。
翔子:……。
尚也:すぐ、フグになる。
翔子:(小声で)怒りますよ。
尚也:ちょっと近くない?
翔子:(小声で)逃げないでくださいよ。
尚也:ちょっと、ネクタイつかむなって。
翔子:(小声で)フグが刺しますよ。
尚也:ちょっと、近い。怒んなって。
翔子:(小声で)ふ~ん。
尚也:からかってごめんって。
翔子:(小声で)飯田さん?どうしたんすか?
翔子:(小声で)顔をそらさないでくださいよ。
尚也:…ごめんって。
尚也:(扉をノックする音)
尚也:は、はーい、どうぞー、
尚也:い、糸崎、カフェオレ来たよ。
尚也:はい、以上で、だ、大丈夫です。
尚也:あ、砂糖無しでよかったの?
翔子:はい、大丈夫です。
尚也:じゃあ、大丈夫です。
尚也:はーい。
尚也:……。
尚也:(大きくため息)
翔子:(ニヤニヤしながら)
翔子:どうしたんですか?
尚也:お前なぁ……。
尚也:店員にバレるだろうが。
翔子:バレるって?
尚也:もー、糸崎のくせに。
翔子:なにかダメでした?
尚也:ネクタイ掴まれて、
尚也:あんな顔で近づいてこられたらな、お前。
翔子:近づいてきたら?
尚也:俺だってなぁ……あー、もう。
尚也:年上からかって遊んでんじゃねーぞ。
翔子:はーい。
翔子:飯田さん、こぼさないでくださいよ?
尚也:わかってるよ。
尚也:糸崎こそ、こぼすなよ。
翔子:大丈夫です。
尚也:あ。おいしいな。
翔子:うん、おいしいですね。
翔子:飯田さんでもああいう顔で焦っちゃうんですね。
尚也:あー、コーヒーおいしい。
翔子:カフェオレですけど。
尚也:カフェオレおいしいわぁ。
翔子:飯田さん?
尚也:なに?
翔子:(小声で)ちょっと静かにしてもらっていいですか?
尚也:(小声で)なに?
尚也:(小声で)……なになに?
翔子:しー!だまって。
尚也:……。
翔子:……。
尚也:……なに?俺の顔になんかついてる?
翔子:しー!だまって。
翔子:……。
尚也:……。
翔子:うん。
尚也:うん、ってなんだよ。
翔子:飯田さん。だまってれば、かっこいいのに。
尚也:バーカ、うるせーよ!
翔子:メンズ雑誌いけるんじゃないですか?
尚也:アホなこと言ってんじゃねーよ。
尚也:ったくよぉ。
尚也:昨日帰る直前に、
尚也:買い出し頼まれて泣きそうな顔してたから
尚也:土曜日、休日返上で、わざわざ、
尚也:わざわざ新宿まで出てきてやったってのに。
翔子:え? 今日、約束とかあったんですか?
尚也:無いけど。
翔子:そういう言い訳をして~、
翔子:アタシとデートしたかったんでしょ?
翔子:飯田せんぱーい?
尚也:あのなぁ。
翔子:おひげみたいにミルクの泡ついてますよ?尚也くん?
尚也:えっ、うそ。
翔子:ウソですよ(笑)
尚也:もー、なんなんだよぉ。
翔子:うふふふふ
尚也:今日はなんでお前にからかわれなきゃいけないんだよ。
翔子:あはは
翔子:たのしい。
尚也:はいはい、よかったですね~。
翔子:あ、飯田さん?
尚也:ん?
翔子:テーブルありました?
尚也:う、うん。あったよ。
翔子:え?そっちだけ?
尚也:テーブル出てたよ?
翔子:え?ほんとに?
尚也:こっちのつかう?
翔子:こっちもあるはずなんですけど、
翔子:タブレット置いてるところの、壁の下に、
翔子:ここから出せるはずなんですけど。
翔子:あれ?
翔子:出てこない。あれ?
尚也:どうしたの?
翔子:テーブルが出てこないんです、これ。
尚也:あ、これ?引っ張るの?
翔子:引っ張れば出るはずなんですけど。
尚也:あーあ、壊した~。
翔子:もー、小学生みたいに茶化してないで、
翔子:手伝ってくださいよ。
尚也:どうしたらいいんだよ?
翔子:ちょっと、いったん、
翔子:コップそっちに置いてもらっていいですか?
尚也:あぁ、こっちにな、いいよ。
翔子:はい。
尚也:ん。
翔子:あれ?えーなんか変。
翔子:飯田さん、こっちのちょっと見てみてくださいよ。
尚也:どれ?これ無理じゃん、引っ張れないよ。
翔子:あきらめないでくださいよー。
尚也:壊してもいやじゃん。
翔子:ダメ。
尚也:ネクタイ掴むなって。
翔子:離れようなんて許しませんから、
翔子:テーブル出してくれるまで、
翔子:このネクタイ離しませんから。
尚也:近いなぁ。
尚也:だって、これもう、
尚也:壁に埋まってガッチガチじゃん。
翔子:ねぇ?飯田先輩?
尚也:困ったなぁ。
翔子:いいんですよ?こっちに倒れてきても?
尚也:お前なぁ……。
翔子:ねぇ、わざとやってるんですか?
尚也:近い近い、
翔子:(耳に)ねぇ、先輩?
翔子:(息をふきかける)ふーーーー。
尚也:耳はやめろって。
尚也:これ、店員さん呼べばいいじゃん。
翔子:先輩、顔赤いですね?
尚也:うるさいなー。
翔子:先輩?
尚也:近いって。
翔子:照れてる先輩かわいい。
尚也:バカ言ってないで、はやく店員さん呼んでくれ。
尚也:もう、無理だから。
翔子:先輩、かわいい。
尚也:おまえなぁ(にらむ)
尚也:……。
翔子:キスしていい?
尚也:今じゃないだろ。
翔子:今じゃなかったらいいんですか?
尚也:全然テーブル動かないじゃん。
翔子:あ、話そらした。。
尚也:壊れてるから店員さんに言おう、な?
翔子:ちぇー。
尚也:苦しいって。締まってきてるからマジで。
翔子:もっと遊べると思ったのに。
尚也:ネクタイ取ろう。もう。
翔子:えー、ダメです。
尚也:ダメじゃないです、もう、外します。
翔子:ああああ。
尚也:これは、もうカバンに片づけます。
翔子:せっかくネクタイしてきたのに。
尚也:それは俺のセリフだ。
翔子:私のコーヒーください。
尚也:はい。
尚也:テーブルどうする?
尚也:店員さん呼ぶ?
翔子:あ、大丈夫です。
翔子:これ、一回軽く押してたら出てくるヤツなんで。
尚也:は?
翔子:グッて押し込んで、
尚也:あ、出てきた。
尚也:なんだよ、知ってたんだろ?
翔子:はい。
尚也:なんだよーもー。
尚也:なんか暑いっ。
翔子:先輩?ドキドキした?
尚也:しない。
翔子:えー、なんで?
翔子:あんな真っ赤な顔してたのに。
尚也:近い。あついのに。
翔子:せっかく、後輩が迫ってあげてるのに。
尚也:はいはいはいはい。
翔子:なーんだぁ、つまんないなぁ~。
尚也:つまんないってなんだよ。
翔子:えーだって、昨日、昼ご飯食べながら、
翔子:刺激がないとか
翔子:スマホゲームのガチャも飽きたとか
翔子:佐々木のおばちゃんと話してたから
尚也:確かに話してたけど、ちがうんだって。
尚也:こういうんじゃないっていうかさ。
翔子:なーーんだ。
尚也:あっつ。もう。
翔子:顔赤いですよ?照れてるんじゃないですか?
尚也:なんで、糸崎なんかに遊ばれなきゃいけないんだよ。
尚也:なんか、むかつくなぁ。
翔子:あははははは、たのしい!
尚也:そりゃよかったよかった。
翔子:先輩はたのしくないんですか?
尚也:はい、たのしいです、たのしいです。
翔子:心がこもってないです。
尚也:あー、もう、どこでそういう
尚也:ぶりっ子キャラ覚えてくるんだよ
翔子:えー、わかんなーーい。
尚也:うぜぇなぁ。
翔子:ねぇ?尚也ぁ?
翔子:こういうのきらい?
尚也:……あのなぁ。
尚也:学生のころそういうバイトしてたの?
翔子:してません!
尚也:あはは
尚也:その道のプロかと思った。
翔子:その道のプロって?!
翔子:あー、尚也先輩わぁ、
翔子:こーいぅ、ぶりっ子キャラのほうがぁ?
翔子:好きだったりしちゃうんですかぁ?
尚也:…だから
翔子:あ、性癖に刺さっちゃいました?
尚也:ちげぇって。
尚也:もー、このソファがダメなんだよ、
尚也:調子にのるから。このバカが。
翔子:あははは
翔子:参ってる参ってる
尚也:なんなんだよったくよぉ。
翔子:困ります?
尚也:困る困る、困ります。
翔子:まぁそうですよね~
翔子:横並びとか、なんか、
翔子:恋人みたいになっちゃいますもんね。
尚也:おまえさ、知ってて来たんだろ?
翔子:まぁ。そうですね。
尚也:ほかの男の人連れて来ればいいじゃん。
翔子:えーー、
尚也:えーじゃない。
尚也:糸崎はさぁ、
翔子:なんですか?
尚也:黙っておとなしくしてたら
尚也:そこそこ見た目は良いんだから。
尚也:俺じゃなくても喜んで来てくれるだろ?
翔子:えー、だって。
翔子:……。
尚也:な、なんだよ。
翔子:尚也せんぱい?、
尚也:…。
翔子:アタシ、尚也さんがいいんだけど。
尚也:……。
翔子:……。
尚也:……っく、だからおまえさぁ、
翔子:っていうのどうですか?
尚也:バーカ。
翔子:いや、感想ですよ、感想。
翔子:次、ちゃんとした男の人と一緒に来て、
翔子:こういうので、落とせるかどうか?!っていう。
尚也:(ため息)
尚也:はいはい、ドキドキします、
尚也:ドキドキしますよー。
尚也:いけるいける。
尚也:成人男性の方を、8人でも9人でも。
尚也:(ため息)
尚也:糸崎監督なら、野球でもサッカーでも
尚也:なんでもやったらいいじゃねぇかよ。
翔子:尚也先輩、首どうしたんですか?
尚也:え?
翔子:ここですよ、
翔子:耳のすぐ下の、
尚也:え?なんかある?
翔子:触りますね。ここに、こう。
尚也:んっ、ちょっと。
翔子:……。
尚也:……。
翔子:……。
尚也:いつまでさわってんだよ。
尚也:なぁ?なにがあんの?
翔子:脈が速いですね~。
尚也:うるさいなぁ、
尚也:しれっと脈測るな!
翔子:いや、だってめちゃくちゃ早いじゃないですか。
翔子:あはははははは
尚也:バカ、うるさい。
尚也:もーー、疲れた。
尚也:調子狂うなー、今日。
翔子:あはははははは
尚也:変な汗かくし。もー。
翔子:あ、尚也せんぱい?
翔子:(ささやく)
翔子:疲れたんなら場所変えて休憩します?
尚也:え?
翔子:(ささやく)
翔子:場所変えて、『休憩』します?
尚也:休憩してるじゃん。
翔子:(ささやく)
翔子:場所変えて、『休憩』とかしませんか?
尚也:え?
尚也:休憩しにきたじゃん?
翔子:もーーー。
尚也:え?どした?
翔子:カフェにきて、
翔子:半分くらいカフェオレ飲んで。
翔子:『休憩』って言ったら?
尚也:もう一軒カフェとか行くの?
尚也:あー、女子はケーキとか
尚也:甘いものも好きだからなぁ。
尚也:でも、俺はコーヒー一杯でいいよ。
翔子:もーーー!
尚也:何怒ってんだよ。
翔子:ど・ん・か・ん!
尚也:ちょっとなに言ってるかわかんないっすね?
翔子:もーそんなんだからモテないんですよ!
尚也:怒んなよ。
尚也:モテないのは知ってるって。
翔子:あー、もう。
尚也:怒んなって。
翔子:怒ってないです!
尚也:なんで、怒ってんだよ。
翔子:ちょっとは、揺らいでくれてもよくないですか?
翔子:アタシだって、
翔子:……恥ずかしいんですから。
翔子:そういう話題……
尚也:そういう?
尚也:ん?
翔子:……。
尚也:あー、はいはい。
尚也:ラブホ行って一発やりますか?って話?
翔子:……。
尚也:え?ちがった?
翔子:もー。
尚也:今から行く?土曜日の午前中だし?
尚也:あ、でも、俺、ゴム持ってないよ?
翔子:(ため息)
尚也:あ、でも、買えばいいか。
尚也:ドラッグストアでも、コンビニでも?
翔子:(ため息)
翔子:もー、ぜんぜんだめ。
尚也:あー、わかった。
尚也:東口のドンキでも行って買う?
尚也:お徳用の百個入りとか売ってるかも!ってこと?
尚也:おまえ、そんなヤバい誘い方すんなって。
尚也:彼氏いないからって
尚也:発情しすぎだろ。
翔子:んもぉーーー!
翔子:台無し!
尚也:あはははは
尚也:笑うトコだろ?
尚也:(ぶりっ子真似て)
尚也:百個とかって、先輩もつんですか~?って、
尚也:いちにちじゃ使い切れませんよーあははって、
尚也:フグみたいな顔して笑うトコだろ。
翔子:……。
尚也:なんだよ。
翔子:ぜんぜん、笑えない。
尚也:はいはい。
尚也:すいませんでしたー。
尚也:どした?栄養足りてないんじゃないの?
尚也:お子様用の牛乳でも頼む?
尚也:カルシウム足りてないんだろ?
翔子:足りてません!
尚也:じゃあ、頼む?
尚也:俺も冷たいもの頼もうかなぁ。
翔子:ぜんぜん、ダメ。
尚也:どうしたんだよ?
翔子:ぜんぜん、ダメ。
尚也:何がダメなんだよ?
翔子:あれもこれも。
尚也:いやいや具体的に言わないとわかんないよ?
翔子:あれもこれも。
尚也:あれもこれもじゃわかんないって?
翔子:……。
尚也:なんで今日、そんなにからかうの?
翔子:……。
尚也:どしたの?
翔子:好きだからです。
翔子:尚也先輩のこと。
尚也:俺、コーラにするけど、オレンジジュースにする?
翔子:はい。
尚也:ん。頼んだよ、オレンジジュース。
翔子:ありがとうございます。
尚也:変だよ、今日。
翔子:そうやってスルーするし。
尚也:なにを?
翔子:好きだからです。
翔子:尚也先輩のこと。って言ったの。
尚也:……いや、……ね、……だから、あのね、
翔子:尚也先輩のこと、好きだからです。
尚也:(深呼吸)
尚也:冗談はやめとこうな。
翔子:いや、冗談とかじゃなくて、
翔子:ふつうに、
翔子:尚也先輩のこと好きなんです、アタシ。
尚也:いや、えっと、だからね?
翔子:ダメですか? 好きになったら?
尚也:いや、ダメとかそういうんじゃないけど。
翔子:彼女、いるんですか?
尚也:…いないけど、
翔子:好きな人いるんですか?
尚也:い……ない…けど、
翔子:結婚してましたっけ?
尚也:うるせぇな、独身だよ。
尚也:なんなんだよ?
翔子:じゃあ、いいじゃん。
尚也:じゃあって…、だからね?
翔子:はい。
尚也:急に言われてもさ、
翔子:はい。
尚也:心の準備とかできるわけないじゃん?
翔子:あー、なるほどなるほど。
尚也:なるほどじゃねーよ、ったくよぉ。
翔子:はい。
翔子:じゃあ、尚也先輩?
尚也:なに?
翔子:深呼吸して~、ほら。
尚也:は?
翔子:はい、吸って~
尚也:(深呼吸 吸って)
翔子:はいて~。
尚也:(深呼吸 はく)
翔子:吸って~
尚也:(深呼吸 吸って)
翔子:はい、尚也先輩、好きです。
尚也:(咳こむ)
尚也:ゴホッゴホッゴホッ。
尚也:だから、あのねぇ?
翔子:今、来るってわかってましたよね?
翔子:深呼吸して、準備できてましたよね?
翔子:今日、3回目ですよ?
翔子:大事なことなので3回言いました。
翔子:尚也先輩、好きです。付き合ってください。
尚也:いや、あのね、だから。
翔子:4回目。
尚也:どうされたいの?
翔子:どうって?
尚也:(店員が来る)
尚也:はーい。
尚也:コーラこっちで。
尚也:ありがとうございます。
尚也:はい、以上で大丈夫です、はーい。
尚也:とりあえず、オレンジジュース飲んで落ち着けって
翔子:……。
尚也:はい、ストローちゃんとしてあげるから。
尚也:はい、どうぞ。
翔子:……。
尚也:冷たい飲み物、おいしいだろ?
翔子:うん。
尚也:あー、コーラうめぇ。
尚也:(大きくため息)
尚也:のど乾いてたの?
翔子:……うん。
尚也:うちの会社も地方の零細企業じゃねぇんだからさ。
尚也:同期だっていっぱいいるだろ?
尚也:営業所にだって、
尚也:男が俺だけってわけじゃないんだし。
尚也:将来有望なヤツだったら、
尚也:俺より若いヤツらのほうがしっかりしてるし、
尚也:なんで10個も年が離れた俺なんだよ。
尚也:遊びたいなら、遊びでもいいと思うよ?
尚也:だけど、俺なんか相手に遊んでどうすんだよ?
翔子:だって……
尚也:休みにすることが無くて
尚也:無趣味ですって言ったって、
尚也:スマホで探せば遊ぶところいっぱいあるだろ?
翔子:そうですけど……
尚也:どうしたいの?
翔子:……。
尚也:はい、指導1(イチ)。
翔子:え?
尚也:そこは、間を置かずに、
尚也:「尚也先輩がいいんです」って言うとこだろ。
翔子:え?
尚也:顔上げて、「尚也先輩がいいんです」って。
翔子:あ、はい。
尚也:はい、言って?
尚也:だれでもいいの?それとも?
翔子:はい、尚也先輩が良いです。
尚也:そうそう、迷う必要ないだろ?そこ。
尚也:好きなんだろ?
翔子:好きです、けど、
翔子:……だって、先輩がなんで俺なんだとか、
翔子:他のヤツらのほうがいいだろとか言うから、
翔子:あー確かに、
翔子:尚也先輩、将来有望かって言ったら、
翔子:そんなことないよな~って。
尚也:は?
翔子:(叩かれる)
翔子:痛っ。
尚也:おまえなぁ。
尚也:ホントにさ?
尚也:からかってるだけだろ?
尚也:怒るぞ?
翔子:だって。
尚也:だって、じゃなくてな?
尚也:俺は、
翔子:「お前のことを思って言ってるんだぞ」
尚也:そうだよ。
翔子:だって、
翔子:そうやって本気で言ってくれてるの、
翔子:飯田係長だけだったんだもん。
翔子:そりゃぁ、学生の頃のバイトとか、
翔子:担任の先生とか、
翔子:おなじような言葉で言う人はいたけど、
翔子:厳密に言えば、課も、となりでちがうのに、
翔子:忙しいのに、
翔子:休憩室で泣いてるの見つけて声かけてくれるの、
翔子:飯田係長だけだったんだもん。
尚也:そりゃ、同じ部署のやつらも心配してたさ。
尚也:高木課長も西村課長も心配してたさ。
尚也:橋本も高畠も、藤本さんも。
翔子:誰かに言われたから来てくれたんですか?
尚也:そうじゃないけど。
尚也:会社の人間として、
尚也:誰かがサポートしてやって、
尚也:みんながなんとか踏ん張れるようにするのが、
尚也:俺らの役目だろ。
翔子:そうですか。
翔子:(深呼吸)
翔子:そうですよね。仕事ですもんね。
翔子:新卒にやめられたら、
翔子:2年目にやめられたら
翔子:3年目にやめられたら、
翔子:4年目にやめられたら、
翔子:そりゃ、困りますもんね。
翔子:私がカンチガイしてただけでした。
翔子:すみませんでした。
翔子:……。
翔子:帰ります。
尚也:待てよ。
尚也:……。
翔子:……。
尚也:座れ。
尚也:(ため息)
尚也:はい、指導2。
翔子:え?
尚也:いいか?糸崎?
翔子:は、はい。
尚也:物分かりが良い。ってのは、
尚也:確かに糸崎の強みでもある。
尚也:理解力があって、推察力もある。
尚也:関係者の力量っつーか、バランスっつーか、
尚也:背景にぼんやり見えるそういうのも、
尚也:察しが良いからバランスよく見えてる。
翔子:は、はい。
尚也:でもな、
翔子:は、はい。
尚也:引いていいトコロと、
尚也:引いちゃいけないトコロってのが、
尚也:まだ、わかってない。だろ?
翔子:は、はい。
尚也:糸崎はな、わかってんだよ。
尚也:直感で、今は引いちゃダメだって時が。
翔子:え?
尚也:先週の、社長プレゼンあったろ?
翔子:はい。
尚也:高畠の背中を糸崎が小突いて、
尚也:高畠が「ですが社長!」って。
翔子:……あ。あれは……。
尚也:あれは?
翔子:高畠主任、すぐビビるから、
翔子:「俺がビビってたら、つつけ」って言うから、
尚也:高畠主任に言われたから?
翔子:はい。
尚也:タイミング最高だったんだよなぁ~。
尚也:笑ったよ。
翔子:あそこしかないって思ったし、
翔子:あのタイミングで大切なことを
翔子:ちゃんと説明できなかったら、
翔子:本気だって思ってもらえないし、
翔子:全部無駄になるの悔しかったから。
翔子:社長だって、聞く耳持ってくれてたし、
翔子:……だから。
尚也:できるじゃん。
尚也:(頭を撫でる尚也)
尚也:ちゃんと。
翔子:……そうやって子ども扱いするから。
翔子:私だって、あきらめようって思ったんです。
翔子:先輩は10個もちがうし。
翔子:私なんて、ただのこどもだし、
翔子:友だちに話しても、
翔子:歳の差の話になるし。
翔子:先週の金曜日の夜に、
翔子:佐々木のおばちゃんに話聞いてもらって、
翔子:晩御飯食べにおいでって言ってもらって
翔子:全部聞いてもらって、泣いて。
翔子:あきらめようって思って。
翔子:あきらめたはずだったんです!
翔子:だけど、なのに、
翔子:飯田係長、優しいんだもん。
翔子:ずるいですよ。
尚也:ずるいって言われてもなぁ。
翔子:昨日とか、困ってるときに、
翔子:明日、一緒に行ってやろうか?なんて
翔子:そーゆーことサラッと言う人なんか、
翔子:いないんですから!
尚也:あ、はい。ごめん。
翔子:いいですか!
尚也:な、なに?
翔子:飯田さん、決めました!
尚也:なに?
翔子:今日から一年間、
翔子:アタシと、付き合ってください。
翔子:それで、例えば、仕事がやりにくいとか、
翔子:やっぱり、仕事上のつきあいのほうが、
翔子:その、適切だとか。
翔子:そういうのあったら、
尚也:あぁ、うん。
翔子:元に戻ります。
尚也:…はい。
翔子:元に戻れるか、アタシわかんないけど、
翔子:正直、自信無いですけど。
尚也:うん。それはその時考えよう。
翔子:1年経って、
翔子:大丈夫だなって思ってもらえたら、
尚也:大丈夫なら?
翔子:……その、なんていうか、
尚也:なれたらね。
尚也:今、言わなくていいよ。
尚也:その、そういうことは。
尚也:俺もちゃんと考えることだし。
翔子:はい。
尚也:そういうことだろ?
翔子:飯田係長……。
尚也:だから、係長ってのをやめてくれって、
翔子:あ、すいません、飯田さん。
尚也:なんかさー、あーーもう。
尚也:これはこれで、調子狂うんだよ?
尚也:係長として、先輩社員として、
尚也:その、しっかりしなきゃいけないって
尚也:俺も、その、自分をいましめてるっていうか、
尚也:ちゃんとした距離をだな……その…。
翔子:アタシにとっては、ステキな先輩です。
尚也:あのなぁ?
尚也:そう言えば良いと思ってんだろ?
翔子:ん~、アタシも複雑なんです。
翔子:なんて言ったらいいんだろ…そのぉ、
翔子:あ、わかった!
尚也:ん?なに?
翔子:アタシ、やっぱり、
翔子:飯田さんが好きなんですよ。
尚也:知ってる。
翔子:たぶん、どんな、飯田さんも、
翔子:バリバリ仕事モードな飯田さんも、
翔子:困って頭抱えてるモードな飯田さんも、
翔子:自販機の前で疲れきって、
翔子:どうしようもない飯田さんも
翔子:ぜんぶ好きなんですよ。
尚也:はいはい。
翔子:ダメですか?
尚也:ダメじゃないけど……
翔子:ダメじゃないけどなんですか?
尚也:だからぁ、
尚也:……困らせるなぁもぉ。
翔子:飯田さん、アタシ、好きです。
尚也:わかってる。
翔子:(笑顔)ふふふふ。
尚也:飯田さん飯田さんってなぁ。
翔子:飯田さんは飯田さんじゃないですか、
翔子:ちがう呼び方していいんですか?
尚也:さっきも好き勝手呼んでたくせに。
翔子:アタシはいいですよ?
翔子:「翔子」って呼んでくれても。
尚也:あのなぁ。
翔子:ある日突然、会社で「翔子」って。
翔子:アタシはうれしいですよ?
尚也:あのなぁ…。
尚也:からかうのもいい加減にしろよ。
翔子:はーい。
翔子:あ、でも、真面目に、
翔子:会社では、今まで通り「いとざき」で。
尚也:当たり前だろ。
翔子:(笑顔)ふふふふ。
尚也:よし、わかった、翔子、
翔子:え。あ、はい。
尚也:翔子、いいか?
翔子:は、はい。
尚也:正直に言うけど、
尚也:俺も、糸崎翔子のことが好きでした。
翔子:……。
尚也:……。
翔子:……。
尚也:……。
翔子:……。
尚也:……。
翔子:……。
尚也:……。
翔子:……え?
尚也:もう言ったからな。
尚也:俺は一回しか言わないからな。
翔子:……好きでしたって?過去形?
尚也:今もだよ。バカ。
尚也:残業してたり、慣れないのにがんばってたり、
尚也:一生懸命勉強して準備してたり、
尚也:眠れなくて大事な日に遅刻して来たり
尚也:寝ぐせの頭で、祝日に
尚也:「すいませんでした!!あれ?」って。
翔子:あ、あれは!
尚也:でも、翔子は、お前は、後輩だから、
尚也:俺のこと好きになるなんてありえないじゃん?
翔子:尚也さんのこと好きですけど。
尚也:わかってる。
尚也:常識的に考えてな?
翔子:好きです。
尚也:知ってる。聞けよ。
翔子:はい。
尚也:十個も下の子がな?
尚也:そういう対象で見てくれることなんて、
尚也:絶対ないと思ってたから。
尚也:だから、あきらめてた。
尚也:親友が連休に俺ん家遊びにくるっていうから、
尚也:飲んで、愚痴って、
尚也:飲んで、愚痴って、
尚也:飲んで、愚痴って、あきらめて。
翔子:そうだったんですか。
尚也:そうだったんだよ。半年前に。
尚也:なのに、なんだこれ。
尚也:はー、しんどい。
翔子:そうだったんですね。
翔子:アタシ、もっと早く見破ってれば勝てたのに!
尚也:負けてたまるかよ!
尚也:絶対バレないように生きてやる。
尚也:あきらめたはずなのになぁ。
尚也:がんばってあきらめたのになぁ。
翔子:あきらめます?
尚也:あきらめないけど?
翔子:うれしい。
尚也:俺もうれしいけど、
尚也:やっとあきらめついたと思ったのになぁ。
尚也:(ため息)
尚也:だけど、
尚也:橋本と藤本さん結婚するって聞いてさ……。
尚也:マジでなんか、むかついたんだよな。
翔子:どうして?
尚也:大ゲンカして、ぜってぇ口もきかない!とか、
尚也:そんなヤツらがさ?
翔子:そんなことあったんですね。
尚也:さんざん同期に迷惑かけといてさ、
尚也:「やっぱり結婚します」じゃねぇよ。
尚也:せめて、付き合ってますぐらい
尚也:公言してから、決めろよ。
尚也:いちゃいちゃいちゃいちゃしやがって。
翔子:そんなにいちゃいちゃしてるようには
翔子:見えなかったですけど……。
尚也:まぁ、あいつら組んでるから、
尚也:仕事早すぎて助かってるけどさ。
翔子:そうだったんですね。
尚也:なのにさー。
尚也:自分は叶いもしない後輩に、
尚也:自販機で飲み物買って渡してるだけで
尚也:妙に、満足してさ。
尚也:俺も、同じベンチで泣いてたなぁ~とか。
尚也:昔を思い出してさ~。
尚也:聞いたら、同じようなトコでつまずいて、
尚也:どうしたらいいですか?って。
尚也:そりゃ攻略法くらいでてくるさ。
尚也:自分にアドバイスしてるようなもんだもん。
翔子:……尚也さん。
尚也:今の俺だって、アドバイスもらいてぇよ。
尚也:って、愚痴ってるだけでなんにもできないしさ。
尚也:そしたら、佐々木のおばちゃんが、
尚也:自販機のとこで休憩してたら、
尚也:すすすーって近づいてきてさ
尚也:『あんた、結婚費用くらい貯金してんだろ?』
尚也:とか、言いやがってさ。
尚也:ふざけんなっての。
翔子:あれ?
翔子:佐々木のおばちゃんにバレてたんですか?
尚也:バレてたよ。
尚也:隠しても無理。
尚也:佐々木のおばちゃんにはバレる。
翔子:やっぱりすごい人ですよね。
尚也:っていうか、
尚也:おばちゃんに言われて気づいたって感じかな。
翔子:気づいた?
尚也:お前のこと「心配なんだ」って言ったら、
尚也:佐々木のおばちゃんが、
尚也:(真似して)
尚也:「それが恋ってやつよ、うふふ」ってさ。
翔子:いつですかそれ?
尚也:2年前くらいかな?
翔子:2年前?
尚也:なんかあった?
翔子:佐々木のおばちゃんに、
翔子:お昼食べてたときに、
翔子:お昼、テレビでドラマつけてるじゃないですか?
尚也:うん。
翔子:アタシが「恋したいな~」って言ったら、
翔子:佐々木のおばちゃんが、
翔子:(真似して)
翔子:「あんたはまだはやい。
翔子: 3年は修行だと思って辛抱しな」って。
尚也:3年?
翔子:うん。
尚也:3年経ったな?
翔子:もう、4年目です、アタシ。
尚也:あれ?
翔子:どうしたんですか?
尚也:今日って、誰に言われた?
翔子:高木課長に、買ってこいってお金渡されました。
尚也:おかしくないか?
翔子:え?
尚也:だって、こういうのこそ、
尚也:佐々木のおばちゃんが行くじゃん?
翔子:あ、それなら、
翔子:佐々木のおばちゃんが週末は時間とれないから、
翔子:代わりに頼んでもいいか?って。
尚也:いつ?
翔子:昨日、金曜日の昼休み前です。
尚也:俺、佐々木のおばちゃんに、
尚也:二人の結婚決まった直後くらいのときにさ、
尚也:「土曜日、手伝ってくれない?」って言われてたんだ。
尚也:んで、昨日の昼休みに、
尚也:「明日用事入れてないわよね?」って念押しされて。
翔子:予定、あけてたんですか?
尚也:あけてたっていうか、
翔子:あー、入れられないですよね。
尚也:だろ?
尚也:んで、夕方、
尚也:おばちゃん帰ったあとに電話きてさ
尚也:「時間とれなくなっちゃって
尚也: 翔子ちゃんに頼まなくちゃいけなくなったのよぉ。
尚也: 慣れてないから、きっと困っちゃうわよねぇ」
尚也:って、昨日の17時過ぎ?くらい。
翔子:あ。
尚也:あ。
翔子:あーーーーー!!!
尚也:あーーーーー!!!
翔子:これ、
尚也:だろ?
翔子:はい、どうあがいても、
尚也:うん、
翔子:会社にバレてますね。
尚也:あきらめるか。
翔子:あきらめたほうがいいと思います。
尚也:佐々木のおばちゃんにしてやられたか。
翔子:アタシには天使に見えますけど?
尚也:おばちゃんに羽生えてんの?
翔子:うん。
尚也:似合わね~な~。
翔子:怒られますよそんなこと言ったら
尚也:よし、あきらめて覚悟しよ。
翔子:アタシも、あきらめて覚悟します。
尚也:なぁ?翔子?
翔子:は、はい。
尚也:俺の恋人になってくれる?
翔子:はい、よろしくお願いします。
尚也:あ、よろしくお願いします。
翔子:ふふふふふ
尚也:あーーあーーー、
翔子:どうしたんですか?
尚也:(嬉しそうに)
尚也:なんかさー。
翔子:なんですか?
尚也:なんか悔しいんだよ!
翔子:あははは、
翔子:尚也さん、やっぱり、かわいい、
翔子:大好きです。


*** おわり ***

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