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「御台本」にて、声劇用シナリオ掲載しています。もしよかったら、ご利用ください。#御台本
— koegeki.com (@koegekicom) 2023年3月26日
御台本 Written by odahttps://oda.koegeki.com
【登場人物】 | 【●性別】 | 【登場人物の概要】 |
---|---|---|
ボクらとウサギと分数と。 | ●朗読用 | 小説の形式です。朗読用にお使いください。 |
◆登場人物
ボク (スズキ)
俊也 (足立俊也:あだちとしや)
◆◆◆
昼になって雲間から太陽が顔を出した。
今朝まで降り続いた雪は、昨日までの窓の外の景色を白い世界に染めてしまった。
ボクの部屋の小さな窓。
そこには、昨日の夕方、隣に住んでいる足立俊也が貼って帰ったクリスマスツリーのシールがひとつ飾ってある。
窓の外で自転車のベルが鳴った。
「すずきーっ!」
にっこり笑って、俊也が手を振った。
ボクは窓を開けて声を投げた。
「おはよー」
「バーカ、すずきぃ!もう昼だぞ!」
俊也はだけど、にっこり笑った。
「昼めし、母さんが持って行けっていうから、持ってきたーっ」
俊也は近所のスーパーのビニール袋を左手で掲げ、ついでに言った。
「窓開けてると寒いだろ!すぐ行く!」
「うん」
ボクはひとつうなづいて、窓を閉めた。
ひんやりとした風に乗って雪の残り香が部屋の中に漂った。
玄関のベルが鳴って、階段の下で俊也とお母さんの声がする。
「おばさん、これ」
「お昼これにすればいい?」
「うん」
「おなかすいてる?」
「うん」
「はーい、じゃあちょっと待っててね」
俊也はすぐに駆けてあがってくる。
ボクの部屋をノックもせずに――階段の音が大急ぎのノックみたいなんだけど――開口一番こういった。
「すずきー、さんすうドリル教えて」
「めずらしいね」
ボクがそう言うと、ホットカーペットのいつもの席に腰を下ろすと、さんすうドリルを開いた。
「だって、わかんねぇんだもん、すずきはわかった?」
「ボクはなんとなくわかった気がする」
「え?!マジで!どうなんの?」
昨日の算数の授業で、分数をはじめてやった。
横棒を引っ張って、その上の数字と下の数字。
1より少ないんだぞってことだけがわかって……。
「4のうちの3ってどういう状況なんだよ?」
口を尖らせて、俊也は言った。
「4人でわけるぶんの、その3人分」
「りんご3個じゃだめなの?ひとり1個食えばいいじゃん!めんどくせーヤツだなぁ」
俊也は茶化しながらいつもの調子で言う。
「ボクの家は4人だからわかったんだよね」
「あぁ、そっか。すずきすげーな」
「なにが?」
「家のこととか算数やってて考えるんだ?」
「そういうのと違う気がするけど」
「俺ん家って、兄ちゃん3人いるだろ?」
「うん」
「母さんいつも1個ずつくれるんだ、りんご。はい、俊也の分ね~って」
「1個まるまる?」
「うん、それに一番上の兄ちゃん丸のままかじりつくし」
「そうなんだ」
そうやって話してると、お母さんがお昼ご飯を持ってきた。
「はい、どうぞ。俊也くんの持ってきたお蕎麦。それと、食後のデザートにりんご切ってきたからどうぞ」
俊哉は目をキラキラさせて言った。
「やっべぇ!りんごウサギ!ウサギりんご!」
お母さんはニコニコしながら言った。
「お蕎麦茹で上がるまでちょっと時間があったから」
俊哉は言った。
「ウサギ食っていいの?」
だからボクは言った。
「お蕎麦が先だよ」
お母さんはニコニコしながら言った。
「あら、算数やってたの?」
俊也が笑って言った。
「そうだよ!すげぇだろ!明日もぜってー大雪!」
お母さんが尋ねる。
「どうして?」
俊也が言った。
「だって、俺が土曜日に算数ドリル開いてるから!」
俊也は声を出してあははははと笑った。
「今、算数のお勉強なにやってるの?」
「いま、ぶんすう!」
「俊也がわかんないって言うんだ」
お母さんは「懐かしいわね」と言って立ち上がった。
俊也が言った。
「あ、でもね、たぶん、蕎麦食ったらわかる」
「あら、どうして?」
「この蕎麦うまいから」
俊也が笑う。
お母さんが俊也に尋ねる。
「あと一人分残ってたけど?」
「あー、あれね、おばさんの。お昼にどうぞって母さんが言ってた」
「あら、そうだったの。ありがとね」
俊也はひとつ大きくうなづいた。
「おばさんありがと」
「やけどしないようにね」
お母さんは部屋のドアを静かに閉めて出て行った。
「ウサギすげぇいただきます」
「お気に入りだね?」
「だって、熱い。俺の母さんつくったことねぇよ、こんな、熱い、ウサギ」
「やけどしないでよ?」
「うん、だいじょーぶだって」
そう言ってボクらはあったかいお蕎麦をフーフーしながらゆっくり食べた。
ふと、俊也はウサギになったりんごをじーーーっと見つめて、
それからふたくち、じーーーっと見つめたままでお蕎麦を食べてから、
そのまま、じーーーーっと見つめたままでだし汁をひとくち飲んでから言った。
「あ。このうさぎ、元は一個のりんごだよな?」
「うん」
「ヤベェ、アツイ!」
「大丈夫?」
「キタ!俺、わかっちゃった!ぶんすう!」
すると俊也は、箸をお蕎麦のどんぶりの上に置くと、りんごのウサギをつかんだ。
ギュイーーーーン!チャキーーーーーン!合体っ!
俊也は急に正座をするとニヤリと笑って言った。
「いいかい?スズキくん?」
「うん」
「このウサギ、合体すると1個のりんごになります」
「うん」
「チャキーーーン!1号!2号!3号!4号!5号!6GO!」
「ウサギに変身すると、6個のウサギになります!」
「うん、そうだね」
「ほらー、できたーぶんすう。オレ天才ぃー」
俊也はすごく嬉しそうにニヤニヤしながら続ける。
「いいか?スズキ?」
「うん」
「オレと、スズキの2人で仲良く分けるときには、3個ずつだろ?」
「うん」
「もし、おばさんと3人でわけるとしたら、2個ずつ」
「うん」
「だから、つまり、6分の2」
「うん、そーだね」
「したがって、2人で分けるときは、6分の3」
「うん」
「ほらーーできたーーー」
俊也はすごく嬉しそうにお蕎麦の続きを満足そうに食べた。
「スズキー、オレ天才じゃねぇ?蕎麦食い終わる前にわかっちゃったし、分数!」
俊也は「ごちそうさまでした」と言って、ウサギりんごを優しく撫でた。
「俊也?」
「なに?」
「じゃあさ、5人でわけるときは?」
ボクが尋ねると、俊哉は言った。
「そりゃぁ……アレだよ。仲良くしたらいいと思う」
「え?」
俊也はひとつ頬張って、言った。
「あとはみんなで仲良くウサギをわけたらいいと思う!」
自信満々に言った。
俊也は立ち上がって、窓の側に立った。
「スズキぃ」
「なに?」
「なんでウサギって白いか知ってる?」
「なんで?」
「雪の中に隠れるんだって」
「あぁ、だから白いの?」
「そ、そゆこと」
俊也は言った。
「雪って、冷たいけどあったかいんだよ」
「冷たいけどあったかいの?」
「そそ。あ、知らねぇ?」
「なにを?」
「かまくらつくったことない?」
「かまくら?」
「あー、そっかスズキ知らねぇんだ?」
「かまくらってなに?」
ボクは3年生の終わりに引っ越してきたから、4年生の今年がこの家で過ごすはじめての冬になる。
俊也は窓の外を指差して言った。
「オレん家の庭のさ、あのへん、」
ボクも立ち上がって、俊也と一緒に窓の前に立つ。
「あのへん?」
「去年も兄ちゃんたちと一緒にでっかいのつくったんだ!スズキが来たときには、もうとけちゃってたけど」
「でっかいの?」
「うん、中に入るとあったかいんだ!」
「中に入るの?」
「んっとね、ちっさい家みたいなのになる!」
「家?」
俊也がにっこり笑った。
「そう、家ス!」
ボクは言った。
「あったかいの?雪が?」
俊也が笑った。
「あ、おめぇ信じてねぇだろ?」
「だって、雪でしょ?」
「あったかいんだって!」
「どんくらい?」
「こんくらい!」
俊也が後ろからボクを抱きしめた。
「こんくらいあったけぇ」
「ちょ、ちょっと」
「ぎゅーってするくらいあったけぇ」
「だけど、ボクらでできるの?」
「スズキが女子でも大丈夫!」
「ホントに?」
「スズキが女子でも、オレの兄ちゃんたちバカだからぜってぇ手伝ってくれる!だって、男が1、2、3、オレの4人。だから大丈夫」
俊也がすぐ目の前でにっこり笑った。
ボクはよくわからないけど、心臓がドキドキしていた。
「スズキ?どうしたの?顔赤けぇぞ?」
「そ、そんなこと無ぇよ」
俊也の顔が近づいてくる。
「おでこかせよ」
俊也がボクの額に自分の額をくっつける。
「熱は無いな」
「そんなの無ぇよ、バカ」
ボクはくるりと窓の方を向いて、俊也に背中を向けた。
俊也が背中でうれしそうに笑った。
「あそこに今年もでっかいかまくらつくるんだ。ヤベェ!楽しみ!ひゃっほーい!」
俊也が背中から離れる。
部屋は暖房であったかいはずなのに、少し寒くなった気がした。
「今日はいい日だな!」
「え?」
「分数もできたし! りんごもウサギだし!」
3年生の終わりに引っ越してきた町で、はじめてできた隣の家の友達。
足立俊也がにっこり笑う。
かまくらの正体はわからないけど、ボクも楽しみになった。
「お昼食べ終わったら、かまくらつくろうな!」
ボクはうなづいて返事をする。
ウサギのりんごを俊也がほおばった。
ボクはお蕎麦の出汁を一口飲んだ。
体があったかくなった。お蕎麦もおいしい。
「でも、雪なんでしょ?」
ボクが尋ねると、俊也は手に持ったウサギを小さく動かしながら笑っていった。
「雪って、冷たいけどあったかいんだよ。ねーウサギぃ」
*** おしまい ***
◆題名『ボクらとウサギと分数と。』
◆登場人物
ボク (鈴木紗希)
俊也 (足立俊也)
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