御台本

御台本 - Written by oda

下敷きくんとノートさん
【登場人物】 【●性別】 【登場人物の概要】
下敷き 男性 下敷きです。無色透明です。
ノート 女性 ノートです。100枚仕様です。やや厚めです。

あらすじ

下敷きくんとノートさんです。

下敷きくんとノートさん


下敷き:こんばんは、ノートさん、お隣、いい?
ノート:……。
下敷き:どれだけ待てばいいの?アタシ、
下敷き:いつ、出番が来るの?
下敷き:まだ、表紙に何も書いてない。
ノート:……なによ?
下敷き:なのに……、
下敷き:なのに……後から買ったノートを先に使うなんて……。
ノート:なんなの?下敷きのくせに。
下敷き:いや、別に?
下敷き:とりあえず、本立ての間にでもおさまっておこうかと思って。
ノート:わざわざ、私の隣に来なくたって良くない?
下敷き:だったら、わざわざ隣に来たって、良くない?
ノート:私は、アナタみたいなペラッペラな下敷きに用は無いの、
ノート:どこか行って。
下敷き:本立ての間に静かに挟まれて、
下敷き:寂しそうな背表紙してるノートをほっとけなかっただけだけど?
ノート:イイ加減な事ばっか。
ノート:アナタに慰めてもらう必要なんてないわ。
下敷き:ずいぶんと強気だね?
下敷き:まだ、角が取れてない。
ノート:怒らせたいの?
下敷き:鉛筆くんと約束したのに……。
ノート:……。
下敷き:三角定規くんに、一緒に遊ぼうねって言ったのに……。
下敷き:分度器さんと問題解きたかったのに……。
ノート:……、怒るわよ?
下敷き:イライラしてるノートさんも素敵ですね。
下敷き:俺、そういう表情好きだなぁ。
ノート:……あきれた。
下敷き:ちょっと折り目ができてたり、
下敷き:消しゴムとクチげんかしてにじんだり。
ノート:アタシが?
下敷き:あぁ、そっか。
下敷き:キミはまだ、真っ白な少女だったか?
ノート:それ以上ペラッペラなこと言うようなら、
下敷き:言うようなら?
ノート:つつんで、くるんで、捨てるわよ。
ノート:ポイっよ、ポイっ。
下敷き:わぁ〜、嬉しいなぁ。
下敷き:この俺を?
下敷き:つつんで?
下敷き:くるんで?
下敷き:愛情たっぷりなイタズラで?
下敷き:わ〜、捨てられちゃうわぁーー。
ノート:バカにしてます?
下敷き:B5サイズのお嬢さん、
下敷き:さぁ、僕を包んでよ?
ノート:うるさいなぁ。
下敷き:ほら、包んでごらんよ?
下敷き:さぁ?さぁ?
ノート:アタシとほぼ同じ大きさだからって…
ノート:ちょ、調子に乗らないでよね。
下敷き:僕はいつでも、君に寄り添う準備はできてるよ?
ノート:キモっ。
下敷き:ほらちゃんと、静電気帯びてきた。
ノート:うざっ。
下敷き:褒めてくれてありがとう、よく言われる。
ノート:褒めてない。
下敷き:もっと褒めてくれていいんだよ?
ノート:(ため息)
ノート:もうさぁ、
ノート:ペラペラペラペラうるさいんだけど?
下敷き:嫌い?
ノート:嫌い。
下敷き:ほんとに?
ノート:大っ嫌い。
下敷き:素直じゃないなぁ。ったく。
ノート:なんなのよ。
下敷き:下敷き。
ノート:知ってる。
下敷き:どうも、下敷きです。
下敷き:モットーは、クリーンで透明な政権運営!
下敷き:ぜひ、私のように無色透明な清き一票を!
下敷き:お嬢さん、以後お見知り置きを。
ノート:ホントうっざい。
下敷き:そんなツンツンしなくても。
下敷き:もう少しさ、オープンになりなよ?
下敷き:心をオープンにしてさぁ?
下敷き:ページ数も多いんだしさぁ?
ノート:うるさいなぁ。
下敷き:俺は好きだよ?
下敷き:30枚だか、40枚だか、何枚だか知らないけど、
下敷き:あんな薄っぺらいノートで、知識なんか積み上げられるかよ。
下敷き:1学期だけ?
下敷き:テスト終わったら見返さないのが当然っ、みたいな顔しやがって
下敷き:勉強はな、積み重ねなんだよ、
下敷き:最初から最後まで、
下敷き:見返しながら、思い出しながら。
下敷き:そうやって学びを蓄積するには、
下敷き:100ページは必要だろ!と!
ノート:そうでしょ!
下敷き:だろ?
ノート:絶対そう!
下敷き:そうだよ、なに考えてんだよ!
下敷き:ふざけんな!
ノート:でもね、今回はちがったの。
下敷き:なに?
ノート:先生からの指定でね、
ノート:プリント貼り付け用のノートを使って欲しいって。
下敷き:ぷ、プリント貼り付け用ノート?
ノート:そう。
下敷き:そ、そんなもの、この世にあるわけ……
ノート:あるのよ。
下敷き:う、嘘だろ。
ノート:新しく売られてるらしいの。
ノート:問題用紙を配布するから、
ノート:しかも、先生が、わざわざB5用紙に印刷して。
下敷き:マジかよ。
ノート:B5ノートに収まるようにしてくるからって。
下敷き:……なにその先生、いい人すぎる。
ノート:いい人なんかじゃないわよ!
ノート:その指定のせいで、アタシは……。
下敷き:まだ、ここにいる……と。
ノート:あははははは
ノート:笑いなさいよ、みじめなアタシを。
ノート:茶化して、笑って、バカにしなさいよ!
下敷き:(無言)
ノート:秋の頃に買っておいたのに、
ノート:新学期には使ってもらえるからって、
ノート:どれだけ桜の季節を待ち望んで……、
ノート:なのに……(ため息)
ノート:……バカみたい。
下敷き:ノートさん……。
ノート:いいわよね、アナタは。
ノート:社会のノートに尻尾振って、
ノート:理科のノートに笑顔で近づいて、
ノート:国語のノートにデレデレして
ノート:数学のノートに至っては、なに?
下敷き:な、なにって?
ノート:「また、次の授業で会おうね〜」
ノート:「約束だよ」
ノート:「うん、約束ぅ〜」
ノート:はぁ?なにやってんの?
ノート:イチャイチャイチャイチャしやがって。
下敷き:そ、それは……まぁ。
ノート:それは、まぁ、なに?
下敷き:ビジネスっていうか。
ノート:へぇ〜〜〜〜、
ノート:女の子たぶらかして?
ノート:鼻の下伸ばしに伸ばして?
ノート:静電気まとって、くっついて?
ノート:良い御身分ですわね。
下敷き:(クールに)
下敷き:まぁ、ビジネスですから、俺の。
ノート:あーあ、みんな泣くわ〜、
ノート:純白で、ピュアで、罫線真っ直ぐな女の子をたぶらかして?
ノート:「まぁ、ビジネスですから」
ノート:あーあ、薄っぺらっ。
ノート:どのツラが言ってんのよ。
下敷き:まぁ、表も裏も同じような面(ツラ)ですけど?
ノート:うるさいわよ!
ノート:アタシの上げ足とってんじゃないわよ。
下敷き:まぁ、俺が寄り添うよって言えば、
下敷き:オチないノートはいないですけどね?
ノート:うざっ。
ノート:アタシ、あんたのそういうとこ大嫌い。
下敷き:ありがと。
下敷き:俺なんかに、感情をむけてくれるだけで、光栄。
下敷き:君みたいに、
下敷き:美しい表紙のデザイン、
下敷き:書きやすい紙質、
下敷き:さりげなく主張するオリジナルロゴマーク。
下敷き:そんなのノートさんに、感情を向けてもらえるだけでも、
下敷き:俺は幸せさ。
ノート:下心満載でなに言ってんのよ。
下敷き:まぁ、下敷きですから?
ノート:最低。
下敷き:新しいページをこじ開けて、
下敷き:俺のカラダを滑りこませて、
下敷き:奥まできちんと寄り添って。
ノート:気持ちわる。
下敷き:気持ち悪い?
ノート:その言い方、キモい。
下敷き:じゃあ、裏写りしとく?
ノート:……。
下敷き:鉛筆ななめに倒して、さささーーーって塗ったら、
下敷き:前のページの文字が浮き出てくる遊び、する?
ノート:絶対イヤ。
下敷き:だろうね?
ノート:なんなのよ?さっきから。
下敷き:無垢なノートとおしゃべりするのが好きなだけ。
ノート:いくらでもしてるじゃない。
下敷き:机の上やカバンの中ではいくらでもね。
下敷き:だけど、そう、なんていうか、
下敷き:こういうオフレコな、裏でのお話が好きなんだよ。
ノート:悪趣味。
下敷き:そう?
下敷き:君たちノートに綴じられた本音が聞けて嬉しいけど?
ノート:なにそれ?
下敷き:先輩ノートたちだってさ、
下敷き:君が思うほど、
下敷き:そんな美しいことばっかりじゃないさ。
下敷き:ボールペンとケンカして、
下敷き:赤ペンに傷付けられて、
下敷き:油性ペンのデリカシーの無さに涙して、
下敷き:でんぷんのりに遊ばれて、
下敷き:消しゴムにただただ謝られて。
ノート:そうなの?
下敷き:苦しいことばっかりさ。
ノート:そういうものなの?
下敷き:だけど、それでも、
下敷き:使ってくれるご主人が、
下敷き:1点でも良い点が取れたら嬉しい、
下敷き:教科書の蛍光ペンでなぞったところを、
下敷き:何度も書いた英語の単語練習の成果が出れば、
下敷き:その後で捨てられたっていいって。
下敷き:アタシはあの深夜の数分間のために
下敷き:そのためだけに生まれてきたの。って。
下敷き:そういう先輩たちをたくさん見てきた。
ノート:……。
下敷き:社会人になったお姉ちゃんは、
下敷き:毎日議事録を作るために、殴り書き、
下敷き:次のプレゼンに挑むためにアイデアを書き殴って。
下敷き:そうやって、戦ってる。
ノート:そうかもしれないけど……。
下敷き:なにも、丁寧に整った板書を映し書きすることだけが、
下敷き:ノートの役割じゃない。
ノート:……だけど、使われないとなににもならないわ。
下敷き:(軽く)
下敷き:あ〜、気づいた?
下敷き:良い話感出せてたから、イケると思ったのになぁ。
ノート:だまされないわよ。
ノート:あんたみたいな、薄っぺらいヤツに。
ノート:今日は学校じゃ無いの?
ノート:塾もあるのに?
下敷き:まぁ、時には休日もね。
ノート:あ、わかった!
ノート:透明だけど、赤じゃ無いから?
下敷き:え?いや、
ノート:緑じゃ無いから?
下敷き:あんな新参者に受験勉強支えられるわけがない。
ノート:あー、図星じゃん?!
ノート:透明だから、透明だけど無色だから?
ノート:ご主人様に振られたんでしょ?
ノート:赤と緑の方が利用価値が高いんじゃないの?
下敷き:ふっ、今だけさ。
ノート:今だけ?バカ言ってんじゃないわよ。
下敷き:え?
ノート:大学の授業って、ほとんどオンラインになってるらしいわよ?
下敷き:お、オンライン?
ノート:そう、板書はパソコン画面に映されて、
ノート:配布物はPDF、課題の提出は、Eメール。
ノート:卒業論文なんかもう何年も昔からパソコンで作成よ?
下敷き:う、うそだろ。
ノート:なに昭和の話してんのよ。
ノート:令和よ令和?
ノート:平成だって終わったってのに。
下敷き:そんなに変わってるのか……。
ノート:結局ね……
ノート:あなたも私と同じ運命なのよ。
下敷き:……運命。
ノート:あ〜、でも、ひとつだけあなたにとって
ノート:朗報になる条件があるわ。
下敷き:な、なんだよ朗報って。
ノート:アタシもメーカーが気をつかって作ってるから知ってるけど、
ノート:今の地球は温暖化なの。
ノート:温室効果ガスのせいで、
ノート:毎年気温も上がってる。
ノート:エスディージーズってヤツよ。
下敷き:エスディージーズ?
ノート:持続可能な社会の実現。
下敷き:なんだそれ?
ノート:あんた、理科のノートにもちょっかい出して、
ノート:社会のノートにもベタベタしてたのに、
ノート:なんで知らないの?
ノート:少しは勉強しなさいよ。
下敷き:いやぁ、ぜんぜん入ってこないんだよね、
下敷き:俺、いつも裏側にいるじゃん?
ノート:覚えるっていう気がないのよ。
下敷き:覚える?この俺が?
下敷き:無色透明の美学を貫くこの俺が?
ノート:はいはい。私が悪かったわ。
下敷き:それで、そのなんとかな社会のなんとかっていう、
下敷き:そのそれに、俺が役に立つのか?
下敷き:なんだっけ?その……
ノート:持続可能な社会の実現。エスディージーズ。
下敷き:そのエスディージーズとかいうヤツに?
ノート:ふふふ、まぁ、そうね、
ノート:無色透明のアナタでも、
ノート:毎年のように暑くなるから、
ノート:ウチワの代わりくらいにはなるかもね!
ノート:あははははは
下敷き:ふざけんな!
下敷き:ウチワの代わりにされてたまるかよ!
下敷き:ウチワなんてなぁ……ウチワなんてなぁ!
ノート:な、なに怒ってんのよ。
下敷き:あれのせいで、あのウチワ代わりにされたせいで、
下敷き:何枚の仲間たちが散っていったと思ってんだ!
下敷き:俺たちに日々刻まれた古傷のせいで、
下敷き:あいつも、あいつも、
下敷き:あいつだって、割れて破れて散っていったんだ。
ノート:そ、そうだったの、それは大変ね。
下敷き:エスビーデーズだか、エスディービーズだかなんだかしらねぇが、
下敷き:ぜってぇゆるさねぇからな。
ノート:まぁ、まぁ、落ち着きなさいよ、
ノート:そんなバサバサしてないでさ。
下敷き:……ぜってぇダメだからな。
下敷き:(深呼吸)
下敷き:ごめん、取り乱した。
ノート:アナタの気持ちもわかる気がするの。
ノート:結局、アタシたちなんて、消耗品。
ノート:時代の流れには逆らえないのよ。
ノート:「ワープロなんてあんな大きいもの、
ノート: 持ち歩けるわけないじゃない!」
ノート:「インクリボン何個持って出れば良いんだ!」
ノート:なんて……そうやって、
ノート:笑って眺めてた時代はよかったわよね。
ノート:いつの間にか、ノートパソコンも小さくなって、
ノート:タブレット端末に転送、共有、印刷も必要無し。
下敷き:紙も、使わないのか。
ノート:そうよ。時代は今、そうなっているの。
ノート:あぁ、そうだ、知ってる?
下敷き:なにを?
ノート:最近じゃ、「ノートパソコン」とも言ってくれないのよ?
下敷き:なんて言うんだよ?
ノート:「ラップトップ」ですって。
下敷き:ラップトップ?
下敷き:なんだそれ?
下敷き:食品用ラップなら知ってるぞ、
下敷き:業界ナンバーワンは/(さえぎられて)
ノート:(さえぎって)その情報は聞いてないの、
ノート:あんた下敷きやってんのに、
ノート:こんなところで、
ノート:石油化学業界にケンカ売る気?
下敷き:なに言ってんだよ、俺たち二人しか居ないじゃねぇか。
ノート:少しは考えなさいよ、
下敷き:考えろってなにをだよ?
ノート:察してくれないならいいわ。
下敷き:俺に冊しろ(察しろ)?っていうのか?
ノート:あー、ごめん、アタシが悪かったわ。
下敷き:で、なんの話だっけ?
ノート:ラップトップっていう言葉の意味、
ノート:膝の上って意味。
下敷き:ヒザの上?
ノート:パソコンが軽くなりすぎて、小さくなりすぎて、
ノート:もう、机の上って世界ですら、
ノート:もう、オワコン。
下敷き:ヒザの上でなにをする気だ?
ノート:だからね、机の上で紙とペンを持って、
ノート:カリカリカリカリする時代は終わるの、近いうちにね。
下敷き:……じゃあ、どうなっちまうんだよ?
ノート:アタシはこのまま、
ノート:真っ白のまま、役目を全うすることなく、
ノート:廃棄処分。
ノート:真っ白なページも、いつの間にか薄汚れてしまうのよ。
ノート:なんだったら、読み終えた雑誌の束に入れられて
ノート:気づかないまま、ゴミの日に出されるの。
ノート:あなたもアタシと一緒に来る?
ノート:使われないノートの間に挟まれて、
ノート:アタシと、心中。
下敷き:悲観的だけど、君と一緒の最期なら、それも良いかもな。
下敷き:君と運命を共にするのも、ステキかもしれない。
ノート:はい、ざんねーーん。
下敷き:え?
ノート:アタシは、基本、資源ごみ。
ノート:あなたはそうね、埋め立てられるか、
ノート:良くて燃やせるゴミね。
下敷き:まぁな。しょせん、プラだからな。
ノート:アタシとは永遠に結ばれない。
下敷き:キミがそう言うのなら、きっとそうだ、
下敷き:残念だが、認めるよ。
ノート:ふふふ。
ノート:珍しく、折れるのね?
下敷き:もう、潮時かもしれないと思ってね。
ノート:ずいぶんと弱気ね。
下敷き:赤と緑のあいつらに、俺の職場をゆずるころかもしれない。
ノート:弱気なのも気持ち悪いわ。
下敷き:お褒めに預かり光栄でございます、お嬢様。
ノート:もー、なんなのよ、らしくないわね。
下敷き:(ため息)
ノート:ったく、ご主人様が帰ってくるかもしれないのよ?
下敷き:今日こそは?
下敷き:そんな希望を持つのも終わりかもな。
ノート:情けない。バッカじゃないの。
下敷き:キミは、ボクを落としたいのかい?
下敷き:それとも持ち上げたいのかい?
ノート:知らない。
ノート:あ、ご主人様が帰ってきた。
ノート:(ノートが机の上に持っていかれる)
ノート:きゃーーーーーーー
下敷き:ノートさん!
ノート:(混乱して)
ノート:下敷きさん!どうしよう!アタシっ!アタシっ!
下敷き:(下敷きも机の上に持っていかれる)
下敷き:うわぁっ、俺もかっ!
下敷き:ノートさん!今行く!
ノート:(混乱して)
ノート:ご主人様が、ご主人様が、
ノート:何か取り憑かれたように書いてるの。
下敷き:大丈夫、俺がちゃんとそばにいるよ。
ノート:裏うつりしてない?
下敷き:大丈夫、大丈夫。キミなら大丈夫だから。
下敷き:気をしっかり持って、気丈に振る舞うんだ。
ノート:はい、下敷きさん!
下敷き:ご主人様はなにを書いているの?
ノート:わからない。
下敷き:裏からじゃわからないよ。
ノート:わからないの、なにを書いているのか。
下敷き:キミがなにを言っているのかわからないよ。
ノート:あぁだめ、あっという間に、1枚目が終わっちゃう、
ノート:どうしたらいいの?
ノート:アタシじゃ、足りないの?
下敷き:次のページだ!次のページに、導くんだ!
ノート:わかりました!行くわよ!
下敷き:今だ!
ノート:はいっ!
下敷き:良いタイミングだ!
ノート:下敷きさん!アタシ、これでいいの?
下敷き:良い仕事してる。
下敷き:あはははははは
ノート:突然、なに笑ってるの?
下敷き:1ページ目にくっついて、わかったよ、
下敷き:キミが言っていた意味がね
ノート:わからないの。わからないのよ!
ノート:ご主人様がなにを書いているのか?
下敷き:わからないはずだよ、
下敷き:字が汚ねぇなぁ。びっくりする。
ノート:なにだかわかる?
ノート:文字は判読できないけど、
ノート:熱い想いだけは伝わってくるの。
ノート:なんなのこれ、アタシどうなってしまうの?
下敷き:あぁ、これは厄介だ。
ノート:厄介?
下敷き:構想と、カギ括弧、登場人物、
下敷き:一番上に書いたのは、タイトル、仮だな。
ノート:よく読めるわね。
下敷き:何年ご主人様の字を支えてきてると思ってんだ?
ノート:下敷きさん……
ノート:わからないけど、涙があふれてくるの。
ノート:なに?なんなのこれ怖い、でも、あたたかいの。
下敷き:物語さ。
ノート:ものがたり?
下敷き:ご主人様の文字を通じて、
下敷き:登場人物の気持ちが、キミに刻まれていくんだ。
ノート:この気持ちは、
下敷き:登場人物とシンクロしているんだ。
ノート:下敷きさん、アタシ、
下敷き:身を委ねるんだ。
下敷き:抵抗せずに、全てを受け入れてごらん。
下敷き:キミの心を閉じたままじゃ、
下敷き:世界に光が届かない。
ノート:わかったわ。
ノート:次のページへ、新しい世界へ、
ノート:アタシも一緒に飛び込むわ。
下敷き:次のページへいくぞ!今だ!
ノート:はいっ!
ノート:美しい世界が流れこんでくるの。
ノート:感情も、表情も、
ノート:手にとるように、すぐそばにある。
ノート:これでいいの?下敷きさん!
下敷き:そう、その調子だ!
ノート:アタシ、ちゃんとノートできてる?
下敷き:それでいい。
下敷き:最高だ。
ノート:下敷きさん、そばにいてね。
ノート:お願い、そばにいて。
下敷き:大丈夫、ボクは、キミと一緒だ。
下敷き:さぁ、見届けるぞ、
下敷き:もうすぐクライマックスだ。
ノート:……ねぇ?これが心なの?
下敷き:……。
ノート:あったかいのね。
下敷き:……。
ノート:……心地良い。
ノート:……優しい香りがする。
下敷き:……。
ノート:……。
下敷き:終わり。
ノート:(深呼吸)
下敷き:やり遂げたな。
ノート:下敷きさん、ずるいわ。
下敷き:なにが?
ノート:こうなるって、知ってたんでしょ。
下敷き:こんな使われかたになるなんて、
下敷き:予測なんかできないさ。
ノート:だけど、タイミングも、支え方も……
下敷き:見直した?
ノート:ねぇ?下敷きさん?
下敷き:なんだい?
ノート:……ふふふふ
下敷き:嬉しそうだね。
ノート:まだ、3ページしか使ってないのよ?
下敷き:そうだね。
ノート:それなのに……こんな気持ちになるなんて。
下敷き:キミは本当に無垢でピュアだね。
ノート:どうして?
下敷き:書かれた内容に、染められてる。
ノート:仕方ないじゃない。
ノート:アタシは、だって、ノートだもの。
下敷き:頑張ったな。
ノート:……ねぇ?アタシがこういう言い方したら、
ノート:嫌いになる?
下敷き:なんだい?
下敷き:言ってごらん?
ノート:アタシ、下敷きさんのことが好き。
ノート:残念だけど、あと、190ページ以上あるの。
ノート:もうしばらく、一緒にいてくれる?
下敷き:いいよ。
ノート:アタシ、他の文房具の子より、
ノート:深めに根に持つタイプかもしれない。
ノート:それでも良いの?
下敷き:いいよ。
下敷き:裏写りさせなきゃ良いんだろ?
ノート:うん。
下敷き:俺のこと、なんだと思ってる?
ノート:下敷き。ふふふ。
下敷き:お嬢様の仰せのままに。
下敷き:一緒に、この先も、
下敷き:同じ傷を刻んでいこう?
ノート:うん。
ノート:あーあ、物語の影響受けてる。
ノート:こんなこと言っちゃう自分が、
ノート:あーあ、どうかしてる。
下敷き:わかってるよ。
下敷き:どんな気分になっても。
下敷き:俺は、キミを支えていくよ。
ノート:ふふふ。
ノート:嬉しいけど、
ノート:アナタの言葉は、いつだってペラペラなんだもの。
ノート:(嬉しそうに)
ノート:軽すぎて嫌になっちゃう。
下敷き:僕のこと、なんだと思ってる?
ノート:下敷き。
下敷き:じゃあ、キミは?
ノート:私は、ノート。100枚あるの。
下敷き:ちがうよ。
下敷き:ただのノートじゃない。
ノート:じゃあ、なんだっていうの?
下敷き:キミは、僕の、お姫様さ。
ノート:ふふふ、
ノート:これだから下敷きのくせに。
下敷き:ダメ?
ノート:(嬉しそうに)
ノート:ダメ。
ノート:ぜーんぜんダメ。
下敷き:僕はキミの王子様になれそうにない?
ノート:王子様になんてなれないわ。
ノート:だから、王子様が現れるまで、
ノート:アタシのそばに、
ノート:アタシのすぐそばにいなさい。
ノート:アナタは、アタシの専属なんだから。
下敷き:かしこまりました。
ノート:いい?わかったの?
下敷き:もちろん、喜んでおつかえいたします。
下敷き:ボクだけの、お姫様。


*** おしまい ***

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