御台本 - Written by oda
【登場人物】 | 【●性別】 | 【登場人物の概要】 |
---|---|---|
秋 | ●女性 | 山吹 秋(やまぶき あき)26歳。 回想シーン(高校2年生、大学1年生)桜と同い年。 高校2年生のクラス替えで桜と出会う。高校ではヤンキーだと思われていた。 |
桜 | ●女性 | 春夏冬 桜(あきなし さくら) 回想シーン(高校2年生、大学1年生)。不治の奇病『季節病』を患っている。 『季節病』髪の色と瞳の色が変わる病。遺伝性は無いと言われているが、突然変異のひとつとして、出現する。出現してしまうと20歳以上生きられない。 ※この奇病はフィクションです。 |
母 | ●女性 | 春夏冬 久美子(あきなし くみこ)。 桜の母。 |
先生 | ●男性 | ●先生:山下龍夫(やました たつお)。 高校の先生、クラス担任。生徒指導担当、進路指導担当。 |
原作協力
原案 夜輝アルマさんコスモスをあなたに
***はじまりはじまり***
●秋:(M モノローグ)
●秋:その花を、私は一度、嫌いになったことがある。
●秋:その花を、嫌いになった私を、
●秋:私は嫌いになったことがある。
●秋:26歳になって、
●秋:7回忌を終えた今年も、お墓参りに、
●秋:私は、その花を持ってきた。
●秋:あなたが好きだと言ったその花を、
●秋:あなたが生きたいと願って、
●秋:その手を伸ばして届かなかった
●秋:わずか先の未来に咲いたその花も、
●秋:あなたは、きっと、
●秋:笑顔で受け取ってくれるはずだから。
***
●母:(呼びかけて)
●母:あー、あきちゃん!
●母:あきちゃん、先に来てくれてたのね。
●秋:あ、ママさん、言ってくれたら、
●秋:私、あそこから水入れてバケツ、
●秋:持ってきたのに。
●母:いいのいいの。
●母:わざわざ東京から戻って来てくれて、
●母:墓参りに来てくれるだけでも充分なのに、
●母:あきちゃんにやってもらうのも、
●母:申し訳ないもの。
●秋:あの、これ、途中のお花屋さんで、
●秋:包んでもらって来たんですけど。
●母:まぁ、きれい。
●母:さくらも喜ぶわよ。
●母:あ、ハサミも持ってきたから、
●母:これ、使ってちょうだい。はい、
●秋:あ、すいません。
●母:いいのいいの。
●母:お花だって買ってきてもらっちゃって。
●母:ねー、さくら、うれしいわよねー。
●母:あきちゃん、私こっちの、
●母:ひぃおじいちゃんのお墓もやらなくちゃだから、
●母:さくらのお墓のお花から、
●母:やってもらっちゃっていいかしら。
●秋:あ、はい、むしろ、やらせてください。
●母:ありがとう、お願いね。
●秋:はい。
●母:あきちゃんいくつになったの?
●秋:この秋で、26歳になりました。
●母:なんだか、毎年聞いちゃってるわね、ワタシね。
●母:学校は?どう?
●秋:大学院、今年で最後なんで、
●秋:3月には卒業できます。
●母:忙しいでしょう。
●秋:あ、いえ、もう、就職活動もめどがついて、
●秋:昨年の論文も、アメリカの医学誌に掲載が決まったので、
●秋:それで、研究施設に推薦頂けたので。
●母:あー、がんばったわねぇ。
●秋:教授との連名なんで、私一人の成果ではないですけど。
●秋:でも、それがあったので、
●秋:研究も続けられることになりました。
●母:さくらもきっと、
●母:私の病気ってこういうことになってたの!
●母:なんて、大喜びよね。
●母:当時は、奇病、謎の病、
●母:生まれてすぐに、
●母:『季節病』って名前だけ宣告されて、ね。
●母:20歳までの人生って。ねぇ?
●母:お医者さんのいいつけどおりに、
●母:20歳の誕生日に亡くなっちゃって。
●母:苦しくないからよかった、なんてね。
●母:あの子らしいけど。
●母:あきちゃん、ありがとね、
●母:さくらの、お友達で居てくれて。
●秋:ママさん、私ね、
●秋:さくらに会えたから、今があるの。
●秋:だって、学生の頃、やんちゃしすぎて、
●秋:どうにもならなかったんだから。
●秋:ママさんも知ってるでしょ?
●母:うん、そうよね、知ってる。
***
●先生:(高校の担任)
●先生:山吹、やまぶきぃ!
●秋:うるせーな。
●先生:髪を染めるなって、
●先生:何度言ったらわかるんだ。
●秋:なんでてめーに言われなきゃいけねぇんだよ。
●先生:いつ髪を戻して来る?
●秋:はぁ?知らねぇよ。
●秋:伸びたら勝手にプリンになんだろ。
●先生:このままだとな、退学だぞ退学、
●秋:うるせーよ。
●秋:だったら、『あきなしさくら』にも言えよ。
●秋:同じような色だろーが、
●秋:『あきなし』がいいんだから、
●秋:オレだっていいだろーが、
●先生:お前は言っていいこととだなー、
●先生:あーーーもう、親に連絡するからな、
●先生:いいな。
●秋:連絡してもどーせ聞かねぇけどな。
●先生:もういい、授業が始まるから、
●先生:席につけ、久しぶりに
●先生:3時間目から来たと思ったら、
●秋:へいへーい。
●先生:いいか、山吹!
●先生:鈴木先生に迷惑かけんなよ。
●秋:うるせーよ。
●桜:ふふふふふ、ちゃんと座るんだね。
●秋:お気に入りの色なのにさー
●秋:いとこの美容院の兄ちゃんが
●秋:ぜってぇ似合うからってやってくれたのに、
●秋:学校来たらこれだよ、
●秋:マジでつまんねー。
●桜:きれいに染まってるね。
●秋:だろ?春になったから、
●秋:赤系がいいかも。って
●秋:でも、見習いだから、
●秋:まだ染めるの下手でさ、
●秋:やべぇ、色ミスったとか言うんだぜ。
●秋:マジ草生える。
●桜:きれいな桃色。
●秋:だろ?
●桜:コスモスみたい。
●秋:オレは、もうちょっと薄い白っぽいのがよかったけど、
●桜:私、その色好き。
●秋:ねぇ、『あきなしさくら』はさ、
●秋:どこで染めてんの?その頭?
●秋:きれい過ぎっしょ。いいなー。
●桜:ふふふふ、ひみつ。
●秋:その色いいよね、
●秋:そういう色、好きなんだよね。
●秋:いとこの兄ちゃんにコスモスみたいなのって
●秋:言ったらよかったかなぁ。
●秋:オレも『あきなしさくら』みたいな、
●秋:そういう色にしたかったのになー。
●桜:ふふふふ、ありがと。
***
●先生:(高校の担任)
●先生:山吹、やまぶきぃ!
●秋:うるせーな。
●先生:いいから来い。
●秋:なんで、指導室ばっかりなんだよ。
●先生:座れ。
●秋:うぜぇな。
●先生:ちょっと真面目な話をするから。
●秋:帰りたいんだけど、
●先生:『あきなしさくら』のことだ。
●秋:なに?かんけーねーし。
●先生:あの子の髪はな、
●先生:病気なんだ。
●秋:は?なにそれ?
●秋:そんな病気なんかねぇし。
●先生:先天性の不治の病。
●先生:もうひとつ言っとく、
●先生:20歳までしか生きられない病気なんだ。
●先生:茶化すようなことはするな。
●秋:は? いいかげんなウソ言ってんじゃねぇよ、
●秋:もっとマシなウソ言えよ、国語教えてんだろ、
●秋:バカじゃないの。
●秋:20歳で死ぬとか、そんなことあるわけねぇじゃん。
●先生:やまぶき、わかってくれ。
●先生:先生はな、
●先生:山吹なら、ちゃんとわかってくれると
●先生:思って、俺は、言ってる。
●秋:嘘だろ……
●秋:せんせい、マジなの? それ、
***
●桜:ただいまー、おかーさーん。
●母:おかえり、
●桜:あのねあのね、
●母:どうしたの? いいことあった?
●桜:今日ね、学校に久しぶりに来た子がいて、
●桜:初めて話したんだけど、
●母:うんうん
●桜:私のこの髪、好きって言ってくれたの。
●桜:その子も、同じような色に染めてて、
●桜:だから先生に怒られてたんだけど、
●桜:廊下とかで
●桜:『あきなし』がいいんだから、
●桜:オレだっていいだろーが、って
●桜:めっちゃ大きい声でケンカしてて、
●桜:私、笑っちゃった。
●母:知らない子だったのかしら。
●桜:うん。たぶん。学校あんまり来てなかったし。
●桜:でも、でもね、
●桜:だからかな? うれしかったの。
●桜:不思議だったけど、
●桜:とっても、うれしかったの。
***
●先生:夏の運動会、秋の文化祭、
●先生:2学期はそれにむけて、あれこれある。
●先生:去年、俺が担任やってた3年2組は、
●先生:全員でTシャツつくって、
●先生:運動会と文化祭でつくってやったりした。
●先生:この2年2組で、
●先生:なにか、やってみたいことあるか?
●秋:はい、せんせー、
●先生:山吹(やまぶき)、
●秋:全員で髪染めたい!
●先生:お前の趣味だろ?怒るぞ?
●秋:いや、ガチで言ってる、
●秋:運動会の写真とか、
●秋:文化祭の写真とか残るから、
●秋:俺らのクラスは、髪染めて、
●秋:全員ちがう色がいい。
●秋:俺のいとこが美容院やってるから、
●秋:だから、順番に行けば、安くしてくれる。
●秋:Tシャツもいいけど、それやらずに、
●秋:俺らのクラスは、認めてもらいたい。
●先生:じゃあ、今の意見、
●先生:多数決とるぞ、賛成だったら手をあげろー
●先生:おいおい、全員かよ。
●先生:勘弁してくれよ。 わかった。
●先生:校則とのアレがあるから、
●先生:できるかどうかわからないけど、
●先生:校長にかけあってみる。
●先生:まだ、よろこぶなー。
***
●桜:おかーさん、
●桜:卒業アルバムできたってー、
●桜:あと2週間しかないけど、
●桜:3月の卒業式までにね、
●桜:みんなで寄せ書きしたりするの
●母:あらー、1年生のころの遠足の写真とかもあるのね、
●桜:見て見て、2年生のときの運動会と文化祭、
●桜:あと、3年のときの運動会も、文化祭も、
●桜:あと、修学旅行のときも。
●桜:この写真すっごく好きで、
●母:あー、懐かしいわねぇ、
●母:みんな頭の色変えちゃって、にぎやかねぇ。
●桜:いいでしょー。
●母:あらー、いい写真ねぇ。
●桜:2年と3年の今のクラスが一番仲イイの。
●桜:クラスのカラーは、深めのピンク色。
●桜:文化祭はこの色一色。
●母:あら、コスモスみたいできれいね。
●母:ねぇ? この子?秋ちゃん? 同じ色じゃない。
●桜:そうなの。秋だけ、しれっと似た色にしてて、
●桜:ずーっと怒られてるのに、
●桜:夏は水色にしてくるし、
●桜:秋は赤とかオレンジ入れてくるし、
●桜:冬の写真全部真っ白だし。
●母:あ、そういえば、秋ちゃん、進路どうするって言ってたの?
●桜:あ、そうそう、それがね!
●桜:秋がね!
***
●先生:バカ言ってんなよ、山吹(やまぶき)、
●先生:お前の成績で、『あきなし』と同じ大学
●先生:目指せるわけないだろうが。
●秋:だけど、決めたんだもん。
●先生:決めたんだもんじゃねぇんだよ。
●先生:2年生の夏休みの前の今だから、
●先生:俺もだいたいの進路希望は認めてきたがな、
●先生:だけどなぁ、1年の後半出席日数ギリギリで、
●先生:むしろアウトだったようなやつがな、
●秋:だけど、決めたんだ。
●先生:お前なぁ、医学部の、
●先生:しかも先端医療技術とか扱うような学部で、
●先生:ついていけるわけないだろうが。
●秋:できねぇかどうかなんか関係ねぇの。
●秋:目指すんだ、行くんだ!
●先生:(ため息)なぁ、山吹、
●先生:自分で考えてること、隠さず言ってみろ。
●先生:誰にも言わないから。
●先生:なにがあった?思いつきじゃないんだろ?
●先生:なんか思ってることあるんだろ?
●秋:オレ、さ、悔しくて。
●秋:だって、どんな病気もどうにかなってきてるじゃん。
●秋:ガンだって、なんとか治る手術とか、なんか、
●秋:そういうの、だって、インフルエンザとかだって、
●秋:バスケ部の男子も骨折したって、
●秋:数か月したらまたバスケできるのに、
●秋:コロナだってどうにかなるような、なんか、
●秋:そういうのあるじゃん。できてきたじゃん。
●秋:なのに、
●秋:ねぇ、なんで桜はさ、桜はさ、
●秋:なんで桜だけ、死ななきゃいけねぇの?
●秋:そんなのないよ、アイツは優しいし、
●秋:みんなにも慕われてて、
●秋:あたまも良くて、
●秋:こんなオレにだって、
●秋:なんかふつーに話しかけてきてさ、
●秋:桜のこと嫌いなやつなんて
●秋:ぜんぜん、いねぇじゃん。
●秋:なのに、なんで? なんで桜は、桜は、
●秋:オレなんかいなくたって、どうにかなるのに、
●秋:なんで桜なんだよ、
●秋:だれか、どうにかしてくれねぇんなら、
●秋:大人がどうにかしてくれるなんて、
●秋:どうせ、嘘なんだから、
●秋:だから、どうにかしたい。
●秋:どうにかしたいって、
●秋:私、初めて思ったんだ、
●秋:桜のために、
●秋:久しぶりに学校来た私に、
●秋:ふつーに話しかけてくれて、
●秋:うれしかったから。
●秋:なのに、
●秋:あんないいヤツが、
●秋:死ぬって決まってるなんて、
●秋:嫌だよ、無しだろ。
●先生:山吹、
●先生:覚悟決めろ。
●秋:え?
●先生:今日、ここで覚悟決めろ。
●先生:あきらめたら俺は本気で怒るからな。
●秋:うん。
●先生:あと、1年とちょっと。
●先生:入試まで、時間は無い。
●先生:全部本気でやれ。やれるだろ?
●秋:うん。
●先生:髪も染めていい。
●先生:校則違反だ!って怒るのが、
●先生:俺の仕事だが、
●先生:みんなの前では怒るけどな、
●先生:山吹は貫け。いいな?
●秋:いいの?
●先生:目指すんだろ?
●秋:うん。
●先生:嘘じゃないんだろ?
●秋:うん。
●先生:『あきなし』と同じ病気の子のために、
●先生:山吹、お前がなんとかするんだろ?
●秋:なんとかしたい。
●先生:よし、中学の教科書からやりなおすからな。
●秋:いいの?
●先生:ビビッてんじゃねぇよ、
●先生:山吹がやるんだろ?
●秋:やる。
●先生:山吹が未来を変えるんだろ?
●秋:変える。
●先生:本気だろ?
●秋:うん、ガチで言ってる。
***
●桜:あきーーーー!
●桜:(泣いている)
●桜:おめでと、おめでと!
●桜:受かったじゃん!大学受かったじゃん!
●秋:なんで、桜が泣いてんだよ、
●桜:だって、だって、だって、
●桜:がんばってたもん、がんばってたもん。
●秋:桜にも教えてもらったからだよ。
●桜:ううん、ぜんぜん、秋ががんばったからだよー。
●桜:秋が、一生懸命やったから、
●桜:一生懸命やったから、だって。
●桜:あきーーーーー。
●秋:泣きすぎだって、
●秋:(もらい泣きしそう)
●秋:さくらが泣くから、私が泣けないじゃん。
●桜:泣くよ、泣くって、あたりまえじゃん!
●桜:おめでとー、あきーーーー。
0:
●秋:苦しくない?
●桜:ううん、大丈夫。発作、落ち着いた。
●秋:よかった。大丈夫?
●桜:うん、そんなに苦しくないからよかった。
●秋:飲み物、いる?
●桜:ううん、大丈夫。
●秋:看護師さん呼ぶからね、
●桜:うん、ありがと。
●桜:せっかく大学一緒に行けたのにね、
●桜:入院しちゃったね。
●秋:もしかしたら、また
●秋:行けるようになるかもしれないじゃん。
●桜:うん。でもね、なんとなく、わかるの。
●秋:なにが?
●桜:残り。みたいなの。
●秋:そういうこと言わないでよ。
●桜:ううん。知っておいてほしいの。
●桜:秋、今の私はね、なんとなくだけど、
●桜:病気とちゃんと会話できてる気がするの。
●秋:会話?
●桜:そう。迎えに来たよ。って。
●秋:だからー、(そういうこと言うなって)
●桜:たぶん、この病気の特徴がそこにある気がするの。
●桜:髪の色と、この瞳の色と、
●桜:季節ごとに変わっていくっていう意味も、
●桜:この3か月くらいの間、
●桜:定期的にくるようになった頭痛も、
●秋:うん、メモしとく。
●桜:桜の木がね、
●秋:うん。
●桜:毎年ちゃんと咲くようにさ、
●桜:この20年間の私の体も、
●桜:なにかをどこかに刻んでた気がするの。
●桜:その20年分のなにかが、あって。
●桜:だから、そこで命は終わるかもしれないんだけどね、
●秋:花が咲いて、次の種になるようなこと?
●桜:うん。そんな感じ。もっと、理論的に伝えたいのに、
●秋:理論的に考えるのは私がやるよ。
●桜:心強いなぁ。秋がいると。
●秋:(泣きながら)
●秋:バカはさ、バカなりにさ、
●秋:…一生懸命やるしか、
●秋:…それしか、…できないからさ、
●桜:もう、なんで泣いてんの。
●秋:だって…。
●桜:秋が泣くからさー、
●桜:私が泣けないじゃん。
●秋:…だって。
●桜:あ、そうだ。
●秋:ん?
●桜:あの色のコスモス、また見たかったなぁ。
●秋:コスモス?
●桜:秋がさ、2年生のとき、
●桜:隣に初めて登校してきた日の、
●桜:あの日の髪の毛みたいな、色。
●秋:あー、あの色ね。
●秋:桜の好きな色。
●桜:桃色の、ちょっと濃くしたような、さ、
●秋:見に行こうよ。
●桜:まだ、春だよ?
●桜:昨日桜の開花宣言でたばっかりなのに。
●秋:いつ咲くのかな?コスモスって。
●桜:秋だよ。9月とかから11月くらいまでだったと思う。
●桜:確か、種類によっては、6月くらいのもあった気はするけど。
●秋:…一緒に見ようよ。
●桜:秋、ごめんごめん、そういうつもりじゃなくて。
●秋:…だって、もっともっと、もっと、
●桜:秋は、そういうところ素敵だよね。
●桜:秋は、私にないものいっぱい持ってる。
●桜:まっすぐだし、一生懸命だし、
●桜:いつも全力だし、
●桜:みんなをひっぱってく強さもあって、
●桜:うらやましいよ。
●秋:桜に言ってもらえるのはうれしいけど、
●秋:だけど、足りないことばっかりで。
●秋:私さ、憧れてたの。
●秋:桜はさ、いつもニコニコしてて、
●秋:私みたいな変なやつにも、
●秋:なんでもない感じで話しかけるしさ、
●桜:え、だって、普通じゃん。
●桜:隣の席の、時々しか4月は来てなかったけど、
●桜:普通じゃん。
●秋:桜だけだったんだもん。
●秋:みんなは距離とってきてたけど
●秋:桜は、私のこと、普通に接してくれたから。
●秋:あー、なんかハズイな。
●桜:なんでもないことじゃん。
●秋:そういうなんでもないことが、
●秋:桜はちゃんとできてるから。
●秋:してくれるから、
●秋:だから、みんな、桜のこと好きだったんだから。
●桜:20歳までしか生きられないこと知ってたからだよ。
●秋:ちがうよ。そんなことない。
●秋:ちゃんと、桜が桜だったから、
●秋:そういう桜だったから、
●秋:みんなともだちになりたかったんだよ。
●桜:そうなの?
●秋:私が言うから間違いないの。
●桜:うふふふふ、ありがと。
●桜:秋からは、大きな愛しか感じないけどね。
●秋:だって、大好きだもん。
●秋:だから、病気のことも解き明かしたい。
●桜:ねぇ、秋?
●秋:なに?
●桜:私のこと、病気のことも、全部知ってほしいから、
●桜:あとはお願いね。
●秋:もう、そういうこと言うから。
●桜:本当言うと、秋と一緒に、
●桜:研究できるような大人になって、
●桜:毎年、いろんな場所にコスモス見に行って、
●桜:そういう未来があったらいいな、って思ってるけど。
●桜:だけど……。
●桜:…大丈夫。秋なら。
●桜:だから、何年かかってもいいから。
●秋:わかってる。
●桜:よかった。安心した。
●秋:心細いよ。
●桜:大丈夫。私はさ、
●秋:うん。
●桜:ずっと、秋と、一緒にいるから。
***
●秋:(M モノローグ)
●秋:その花を、私は一度、嫌いになったことがある。
●秋:救うことができなかったひとつの命を
●秋:なにもできなかった自分を悔やんで、
●秋:その花を、遠ざけて嫌いになって逃げた私を、
●秋:私は、嫌いになったことがある。
●秋:26歳になって、
●秋:7回忌を終えた今年も、お墓参りに、
●秋:私は、その花を持ってきた。
●秋:あなたが好きだと言ったその花を、
●秋:あなたが生きたいと願って、
●秋:その手を伸ばして届かなかった、
●秋:わずか先の未来に咲いたその花も、
●秋:今年も命をつなぎ続けて、
●秋:繰り返しあざやかに咲くその花を、
●秋:あなたは、きっと、
●秋:笑顔で受け取ってくれるはずだから。
***
●母:(呼びかけて)
●母:わぁ、あきちゃん!
●母:あきちゃん、きれいにいけてくれたのね。
●秋:あ、ママさん、こんな感じでよかったですか?
●母:うんうん、上出来。
●秋:持ってきたコスモス、
●秋:さくらのお墓だけ、ちょっと多めにしちゃった。
●母:うふふふ、
●秋:おじいちゃんたちに怒られるかな?
●母:いいのいいの。
●母:今頃、天国で喜んでるわ。
●秋:コスモスの花の色って、いろいろあるんだけど、
●母:そうね、カラフルよね。
●秋:たぶん、桜は、
●秋:この色が一番好きだと思う。
●母:あーそうね、きっとその色。
●母:さくらはね、いつも言ってたの。
●母:コスモスは、
●母:桜と秋をちゃんと繋いでくれる花なんだって。
●秋:ふたりとも好きな色だから、きっとそうですね。
●母:あら、気づいてなかった?
●秋:え?
●母:コスモスって、漢字で書いてごらん?
●秋:え?
●秋:……、
●秋:あ、あー、そっか。
●秋:ママさん、それ、教えてくれてありがとう。
●母:ふふふ、あきちゃんおおげさねぇ。
●秋:私、それ、
●秋:今日、やっと気づきました。
●秋:私、やっぱり、コスモス大好きです。
***おわり***