御台本

御台本 - Written by oda

アイスにお酒に初恋に
【登場人物】 【●性別】 【登場人物の概要】
郁実 女性 若林郁実(わかばやしいくみ)。社会人の息抜き。
俊也 男性 高峰俊也(たかみねとしや)。駄菓子屋を経営している。

あらすじ

大人になってからの、ため息のつきかた。

アイスにお酒に初恋に

***

郁実:(N)セピア色の古ぼけた写真みたいな思い出。
郁実:(N)子どものころの写真は、そうは言っても私自身はカラーのものしかない世代だけど。
郁実:(N)例えば、これは、懐かしい色の思い出。
郁実:(N)幼稚園の帰りのバス。
郁実:(N)降りるのはいつも、私と、もうひとり――たかみね、としや。
郁実:(N)おばあちゃんが迎えに来てくれる日。
郁実:(N)ゆっくり歩くおばあちゃんの歩幅に合わせるように、
郁実:(N)としやくんと私は、コンクリートの隙間に咲いたたんぽぽの綿毛を飛ばしたり、
郁実:(N)カラスの鳴き声をまねしてみたり、幼稚園で歌った歌を、うたってみたり。
郁実:(N)おばあちゃんが迎えに来てくれる日は、アイスを買ってくれた。
郁実:(N)ふたりで分け合って食べるアイスを、おかあさんに内緒で。
郁実:(N)暑い夏の始まりのころ、おばあちゃんの『内緒だよ』を、ふたりで仲良くわけっこしたのを思い出す
*バスの止まる音
*バスが走り去る音
郁実:もしもし、あっちゃん?ごめん、電話もらったのに、出れなくて。どした?
*相手の声(あ「(今度の週末、遊びに行かない?)
郁実:週末?あ、ごめん。今週、東京にいないんだわ
*相手の声(あ「(どっか行ってるの?)
郁実:えっと、小さいときに住んでたとこ。実家ってわけじゃないんだけど、引っ越したから。
郁実:うん。ゆ~きゅう~きゅう~か。
郁実:いいでしょー。ま、ときには、木金で休んでもいいでしょ。
郁実:日曜には帰る。また、連絡するね。うん。ありがとまたねー、はいはーい
郁実:(N)かけてくるのは、同僚の女の子くらい。
郁実:(N)必要な連絡は、『パソコンメールにください。見ますので』と言って、スマホの通知をオフにする。
郁実:(N)そのくらいの自由は、与えてくれても良いと思うんです。

郁実:あー、変わってない

郁実:(N)バス停は、少しだけ移動していて、だけど、アイスを買った駄菓子屋さんは、変わらないたたずまいでそこにあった。うれしくて、つい、小走りになる
郁実:おじゃましまーす
俊也:いらっしゃーい
郁実:わ~、懐かしい。あ、すいません
俊也:いえいえ、ゆっくり見てってください
郁実:ここって、ずっと変わってないですよね?
俊也:まぁ、そうですね。おかげさんで
郁実:実は、私、小さいころこのアタリに住んでまして
俊也:変わってないですか?
郁実:うん。ぜんぜん変わってなくて。
郁実:バス停の近くのスーパーとか、あのふみきりの近くの、あそこなくなってたから、
郁実:ちょっと寂しいなぁって思ってたんですけど、
俊也:あー、あそこは、4、5年前ですね
郁実:4、5年前ですか
俊也:最近じゃもう、小学生も数えるくらいになっちゃったんで、駄菓子屋も、なかなか。
俊也:でも、時折、お客さんみたいに、目を輝かせて入ってこられるんで、オトナが
郁実:すいません。でもうれしくなっちゃって
俊也:ありがとうございます
郁実:あのー、アイスあります?
俊也:アイスは、こっちに移動しました。昔は表においてたんですけど、雨ざらしで壊れちゃったんで、こっちに
郁実:あー、ないかー?
俊也:どうかされました?
郁実:あの、昔、おばあちゃんが買ってくれたりしたんですけど、ふたりで、半分こして食べられる棒のアイスがあったと思うんですけど
俊也:半分こ?
郁実:ソーダ味の
俊也:あー、去年の春に、販売終了になりましたよ。ダブルソーダでしょ? 棒が2本ついてて、半分に割って食べる
郁実:そう!それ、それです
俊也:メーカーからお知らせ来てたんで、去年の夏まではガラス扉に貼ってましたけど
郁実:販売終了とかになるものなんですか?
俊也:駄菓子屋やってると、そこに並んでるほうが不自然なものもありますけどね、年間どれだけ売れてるんだか
郁実:そっか・・・
俊也:ボクもね、あのアイスは懐かしくて。
俊也:幼稚園のバスで、帰ってきて、そこで降りるのが一緒の子がいたんですけど、
俊也:その子のおばあちゃんが、なぜかボクの分も買ってくれるんですよ。ダブルソーダ。
俊也:でも、子供だから、あげるって言われたらもらうじゃないですか。
俊也:一緒に食べて、一緒に帰って。なんだか、うれしくてね。
郁実:あのぉ、
俊也:はい?
郁実:としやくん?ですか?
俊也:です・・・俊也です
郁実:うそー
俊也:え?郁実?
郁実:うん。
俊也:マジか?
郁実:ここ、実家だっけ?
俊也:ちがうちがう。実家はもっとあっち
郁実:だよね?え、でも、なんで駄菓子屋?
俊也:もらった
郁実:もらった?
俊也:もらったって言ったらおかしいか、厳密に言うと物件ごと買ったんだけど、
俊也:うちのじいちゃんが、ここの駄菓子屋のお父さんと仲良しでさ、
俊也:やめるっていうから、俺が『いやだな』って言ったんだよ。そしたら、くれてやるって
郁実:それで、今?これやってんの?
俊也:木曜日と金曜日だけな。それも、昼過ぎから、夕方まで
郁実:そうだったんだ
俊也:郁実が来てくれるの、待ってた
郁実:・・・
俊也:なんてな
郁実:あ、ごめん、聞いてなかった。なんて?
俊也:休みの日だけあけてるんだよ。こどもたちのために
郁実:お仕事は?
俊也:会計事務所兼コンサルなんだけど、今はほとんど町おこしNPOみたいなことやってる
郁実:これも、その一環?
俊也:まぁ、そうかな。郁実は、今は?
郁実:東京。OLやってる
俊也:がんばってんだな
郁実:それなりにねー。がんばってるっていうか、なんていうか、
俊也:平日休みの仕事なの?
郁実:ううん。一応、土日お休み。今日は、有給休暇を力ずくでとってきた。って感じ
俊也:がんばってんな
郁実:かもしんない
俊也:アイスモナカでいい?
郁実:え、わるいよ
俊也:おばあちゃんにおごってもらったぶん。やっと返せる(笑)
郁実:ありがと
俊也:はい、どうぞ。そこの日陰にベンチあるから。あ、俺も一個、一緒にたべよう
郁実:うん
*ふたりベンチに腰掛ける
俊也:アイスがおいしい季節になったね
郁実:最近、変に暑いよ。やんなっちゃう。いただきまーす
*袋を開ける音
俊也:あー、うめぇ。いつぶり?ここらへん来るの
郁実:それこそ幼稚園ぶり
俊也:そっか
郁実:としとったねー
俊也:そりゃそうだよ、もう35だぜ
郁実:そうだけど。ずっとこっちいたの?
俊也:いんや、大阪とか、名古屋とか、三重県とか、九州とか、北海道とか、いろいろ。
郁実:転勤で?
俊也:うん。転勤もあったけど、知り合いの手伝いってパターンもあって。あっちいったりこっちいったり
郁実:そっか
俊也:両親が心配だからって思って帰ってくりゃ、嫁連れて帰ってくるんじゃなかったんか!とかいわれてさ。
俊也:やんなっちゃうよ
郁実:お嫁さん?
俊也:結婚はしてない。あっちこっち行ってたし、仕事が面白かったから、ぜんぜん
郁実:はーよかった
俊也:よかった?
郁実:アタシだけじゃなかったんだーって思って、
俊也:まぁ、別にそれだけが人生じゃないし
郁実:うんうん。仕事がおもしろくってさ、がむしゃらにやってきたら、いつの間にかあっという間に過ぎ去ってて。
郁実:気づいたら、ベテラン?みたいな位置に持ってかれて、役職っていうか、お給料上がらないのに肩書きだけついて、
郁実:主婦になってやめてった先輩から、かわいがってもらえてて、ご飯行ったりするんだけど、
郁実:変に、女性初の管理職!みたいに、なんか、わけわかんない希望背負わされてる感じがしたりして。
郁実:あ、ごめん、なんか愚痴っぽくなって、やだね、アタシ
俊也:いいんじゃない?そういうの、吐かれても、なんもできないけど、聞くことだけはできるからさ。
俊也:まぁ、聞くことしかできないけど、俺、利害関係ないから、吐いとけば
郁実:聞いてー! なんか、会議のときに、イチイチ『女性目線でどう思う?』とか言われて、
郁実:でもさー、おじさんたちにさ、ぶっちゃけ『その企画、クソデスネ』っていえないじゃん?
郁実:だから、やんわりと、もっとこうしたほうが良いとおもいますよーってニュアンスだけ、こう、伝えるじゃん?
郁実:そしたら、わかってもらえなくて、『良いか悪いか』を聞いてるとか言われて。
郁実:『いいんじゃないでしょうか?』みたいなわけわかんない感じになっちゃってさー。
郁実:でも、絶対、『ダメだと思います』っていえないじゃん? 女、アタシしかいないしさ
俊也:すげぇな。見事な対応だと思うよ。結局、実行することが決まってる段階でしか、意見を求められないんでしょ?
郁実:そんな感じ
俊也:だったら、正解なんだよ。
俊也:あんたらが良いと思ってるんなら、っていう部分をかっこ書きにして、
俊也:『いいんじゃないでしょうか?』っていうのは
郁実:でも、もやもやするんだよ。ずーっと。で、案の定、採算とれずにこけてる企画があるし
俊也:でも、それって、聞く耳を持ってないんだから、仕方ないと思う。
俊也:俺も、町おこしとか、そういう仕事してるとさ、
郁実:うん
俊也:聞く耳持ってくれたら、変わるのに。って思うことしかなくて
郁実:うん
俊也:いつまでたっても、『若造が』にしかならないんだよね。
俊也:俺が1歳年取ったら、おじいちゃんたちも1歳年取るわけでさ
郁実:そうだよね
俊也:それに、商店街とかには、定年退職って無いわけ。
俊也:だから、リミットが、おじいちゃん死ぬまで。になってるしさ、
俊也:わからずやのおじいちゃんほど死なないから、問題なんだよ
郁実:死ねばいいのに
俊也:ホント、それ
郁実:でも、そうじゃないんだよね
俊也:そう。そういうわからずやのおじいちゃんにこそ、変わった世界を見せてあげたい。
俊也:シャッター降りた商店じゃない、一番にぎわってた時代を知ってるじいちゃんにこそ、
俊也:シャッターの降りてないあのころ以上の商店街を見せたいっておもうんだけどさ
郁実:がんばってんね
俊也:がんばれないよ
郁実:うん。がんばれないけど、
俊也:やるしかないじゃん?
郁実:そうそう
俊也:でも、あきらめそうになるよ。大手アイスメーカーから、生産終了とかいわれるとさ
郁実:だよね
俊也:ひとつの時代が終わるとさ、なんだか、すっごく取り残された気がしてね
郁実:うん
俊也:だけど、まだ、生産終了にはできないから。こっちは。
郁実:うん
俊也:だから、まぁ、やってくか。な
郁実:アタシもがんばろう
俊也:がんばらずにがんばれ
郁実:なにそれ
俊也:がんばってがんばると、ろくな結果にならないから、がんばらずに、がんばる。
俊也:もしくは、がんばらずにがんばれちゃうところで、がんばる
郁実:あーあ
俊也:どしたの?
郁実:もうちょっと早く帰ってくればよかった
俊也:なんで?
郁実:がんばりたくないから
俊也:いいじゃん、いつでも。帰ってくれば
郁実:でもさ
俊也:思うときに、思うようにすれば良いと思う。
俊也:5年前だったら、あそこのスーパーはやってたかもしれないし、
俊也:ダブルソーダもあったかもしれないけど、この駄菓子屋はなかったから
郁実:なかったの?
俊也:一旦、閉店してたんだよ。3年間くらい。その後から、俺が再開したから
郁実:そか
俊也:まぁ、住むとこ探してたら、ここだったってだけなんだけどさ、
郁実:ここ?
俊也:そうだよ、ここの2階。
郁実:いいなぁ
俊也:いいよ~
郁実:駄菓子食べ放題じゃん
俊也:それは、俺、毎日思う
郁実:食べればいいじゃん?
俊也:卸値で買ってる
郁実:あー、そっか
俊也:そそ。
郁実:それでも、いいなぁ
俊也:いいでしょ
郁実:いいなぁ
俊也:あー、だけどね、郁実のおばあちゃんには悪いけど、
俊也:俺、おばあちゃんがアイスおごってくれてた理由がわかったんだよ
郁実:なに?
俊也:あのアイス、安かったんだよ。一番安くて、二人分あったから。ちょうどよかったんだよ。
郁実:あー
俊也:だから、一人分だったんだよ。郁実に買うのも、ついでに俺が食べるのもかわらなくて。
郁実:おばあちゃん、言ってるよ。
俊也:なに?
郁実:あの子元気にしてるかなぁ~、アイスおいしそうに食べてくれる子って
俊也:アイスの子なんだ。
郁実:そ。アイスの子
俊也:おばあちゃんに言っといて、アイスの子、元気だよって
郁実:言っとく。会えたって言っとく。一緒にアイス食べてきたって言っとく
俊也:うん
郁実:あー、おいしかった
俊也:あ、ごみもらう
郁実:あ、ありがと
俊也:なんか、うれしいもんだな。
郁実:なにが?
俊也:いやぁ、初恋の相手に、久しぶりに会えて、フツーに話せるって
郁実:え?
俊也:いや、フツーに会えて、フツーに話せて、フツーに、並んでアイス食って
郁実:・・・・さらっと、言わないでよ。聞かなかったフリできないじゃん
俊也:ん?どうかした?
郁実:いいとしこいてさー、あーーーーー、もう。
俊也:え?なに?
郁実:なんでもない
俊也:どうしたの?
郁実:っていうか、イイモノデスネ!!!
俊也:だろ?
郁実:ハツコイのヒトが、そこそこおっさんになってて、とし食ってっても、なんかウレシイもんですね
俊也:え?ハツコイ?
郁実:だって、そっちが言ったんじゃん
俊也:そーなの?
郁実:あー、なんかずるい。えー、もう、なんかすっごい恥ずかしいんですけどー
俊也:俺だけかと思ってた
郁実:私だけだと思ってました
俊也:そーなんだ
郁実:そーなんです。再確認しないでよ
俊也:両思いだったんだ
郁実:だから、再確認しないでよ
俊也:え、いいじゃん。もう時効でしょ?
郁実:犯罪者じゃないんだから
俊也:賞味期限切れでしょう
郁実:だと思う。あれ以降どうやって生きてきたのか、わかんないわけだし
俊也:そうだな。教えてよ
郁実:教える?
俊也:郁実の、人生。ってか、今日までのこと
郁実:いいよ。としやもさ、教えてよ。としやの今日まで
俊也:いいよ
郁実:(ため息)なんだろこれ
俊也:そんなため息ついてたら幸せ逃げるよ。アイスのこの袋に吐いたら?、はい、ため息

*受け取る郁実

郁実:(ため息)
俊也:まじめだなぁ
郁実:なんか、だまされたみたいになってる
俊也:はい、吸ってすって、アイスの袋の中の、幸せ吸って
郁実:そんな必死にならなくっても(笑)
俊也:必死ですよ。いくらあっても足りないじゃん。幸せ。
俊也:早くしないと腐って、賞味期限きれちゃうよ。ロスんなるよ
郁実:そうかなぁ
俊也:なるって
郁実:なんとなくね、今の、この感じは、アイスと一緒な気がする
俊也:・・・あのなぁ
郁実:なに照れてんの?
俊也:駄菓子屋の俺に言うか?そのたとえで
郁実:あ、知ってた?
俊也:食品のバイトかなんかしてたの?
郁実:チェーンの卸しとサポートやってる
俊也:アイスと一緒ですか
郁実:再確認しないでよ、はずかしいでしょ
俊也:俺も、同じこと思ってただけだよ。
郁実:恥ずかしくて、いえないからね
俊也:いいんじゃない。息抜きしに来れば
郁実:そうする
俊也:ここの2階、ひと部屋開いてるから、いつでも泊まりにおいで
郁実:そうする
俊也:それか、今日の夜、酒でも飲むか?
郁実:アイスに、お酒に。そんなのでつられるとおもう?
俊也:うん。釣られると思う。アイスに、お酒に、ハツコイに
郁実:ばーか。駄菓子にする! 良いって言うまで、お店に入ってこないでくださいね
俊也:はいはーい。 お買い上げありがとーございまーーーす

***

郁実:キャスト
郁実:若林 郁実 わかばやし いくみ、【演者のお名前を言う】
俊也:高峰 俊也 たかみね  としや、【演者のお名前を言う】
郁実:以上でお送りしました。
俊也:あ、あれ、タイトルは?
郁実:えっと、
俊也:これこれ
郁実:アイスに、お酒に、ハツコイに。
俊也:賞味期限はありません
俊也:でしたー
郁実:なんか恥ずかしいんですけど、これ
俊也:でしたー
俊也:食べたい駄菓子決まったー?
郁実:待って、まだー。ねぇねぇ、
俊也:なに? どした?(店内に入っていくフェードアウト
郁実:これっておいしい?
俊也:食べたらわかるよーw
郁実:えーwww

---end---

劇場・雑談処はこちら

Twitter

当サイトの「シナリオを使用したい」などのご連絡は、Twitter(@koegeki.com)へのリプライなどをご利用ください。DMは相互フォローで解放しています。

管理人のおだが運営しているTwitter(@koegeki.com)へ、「シナリオを使用します」ご連絡を頂いた際に、ツイートされているおしらせに気づいたら、リツイートさせていただきます。

ハッシュタグは「#御台本」を使ってもらえたら嬉しいです!

使用したいときはリプライ頂けたら嬉しいです。

御台本一覧へ戻る