御台本 - Written by oda
【登場人物】 | 【●性別】 | 【登場人物の概要】 |
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あらすじ
「今夜も星がきれいだね」くじらさんは言いました。いるかとくじら
*いるかとくじら
◆題名 『海と空と、星の降る夜に』
~僕らがもらったプレゼント~
◆登場人物
くじら
いるか
◆◆◆
「今夜も星がきれいだね」
くじらさんは言いました。
「そうだね」
いるかさんは白いお腹を星空に向けて、背泳ぎしながらくじらのとなりを泳いでいきます。
ふたりはならんで夜のおさんぽをしていました。
静かな海にふたりの泳いでいった印が二本、細く白い波になっていきました。
「ねぇ?くじら?」
「どうしたの?」
「ぼくらは、どうして生きているの?」
いるかはすいーっと軽やかに尾ひれを動かすと、
くじらの下をくぐって、右側の水面にでてきました。
くじらが黙っていると、
「ぼくらは気がついたら海にいて。こうやって泳いでる。
おなかがすいたらごはんを食べて、
天気の良い日は水面をはねて遊んだり、星空がきれいな夜は、
くじらとこうやっておさんぽしたりする。
だけど、どうして生きているんだろう?って気になったんだ。
くじらは本をいっぱい読んでいるだろ?
だから、なにか知っているかもしれない、って思ったんだ」
くじらは言いました。
「僕たちはね、生かされているんだよ」
いるかはきょとんとした目でたずねました。
「生かされているの?」
くじらは頷いて続けました。
「そう。生かされているんだよ。どこかのだれかさんに。
だから、僕らは生きているだけでいいんだ。生きていくだけでいいんだよ」
「生きていくだけでいいの?」
「そう。それだけでいい」
「だけど……」
いるかは不安そうな顔をしていいました。
「だけど、ほんとうにそれだけでいいの?」
「いるかはスポーツも好きだし、
じっとしていられないたちだから不安になるんだね」
くじらがそういうと、いるかはうなずきました。
「そう、なにかしていたくなるんだ」
いるかがそういうと、くじらはいつもの優しい目を、
もっと優しい目にしていいました。
「それも大切なことだよ」
いるかはくじらにそう言われて、ちょっと安心しました。
くじらは言いました。
「僕たちは、生きていくだけでいい。
だけど、ちょっぴり物足りなくなる。
僕らをつくっただれかさんは、そんな気分になるように、
僕らに魔法をかけたんだ」
「魔法?」
「そう。なにかしていたくなる、ウズウズする魔法」
「どうしてそんな魔法をかけたの?」
「さぁ?僕にはわからない。
だけど、きっとね、その魔法は僕らをつくっただれかさんからの、
プレゼントだと思うんだ」
「プレゼント?」
「ただ生きていく。それできっと、正解。
だけど、なんだかウズウズしてしまって、なにかやりたくなってしまう」
「なにをやればいいの?」
「なんでもいいんだと思うよ」
「なんでも?」
「そう、僕らはそのウズウズする魔法と一緒に、
なんでもやっていいよ、っていう自由をもらったんだ」
「なんでもいいの?」
「うん。なんでもいいと思う」
「ボール遊びでも?」
「うん」
「紅茶を飲むことでも?」
「うん。こうやって、
のんびり星空をながめながらおさんぽすることでもいい」
「そっか」
いるかはまた、波の下にもぐると、くじらの左側にもどりました。
「こうやってくじらの左側にいてもいいってこと?」
「そうだね」
いるかは笑顔になりました。
くじらは微笑んで、いるかにたずねました。
「わくわくする?」
「うん、なんだか、わくわくしてきた」
ふたりはまた、静かな海の上で、静かな星空を見上げました。
いるかさんは言いました。
「今夜も星がきれいだね」
「そうだね」
ふたりはならんで夜のおさんぽをつづけました。
静かな海にふたりの泳いでいった印が二本、細く白い波になっていきました。
-おわり-