Welcome to This World.

概要

転生して来た世界……ここは?

キャスト

異世界
エリス:ヴィアサーン種族 非力だが魔法に長けていて空を飛ぶこともできる羽がある。
OD:オーディー。ゴブリン種族 魔力が弱く、力持ち、不器用。

メアリス。エリスの母
ユーリス。エリスの姉

現代
朱鷺野 直哉 ときのなおや。私立 陽向(ヨウコウ)高校
OD:オーディー。キーチェーンのぬいぐるみ約10cm

清水 恵理子 しみずえりこ。私立 陽向(ヨウコウ)高校
浜松 里奈  はままつりな。私立 陽向(ヨウコウ)高校

佐々木 弥生 ささきやよい。ショッピングモール「ポエットの正社員、社会科見学の担当

*ちょい役*
金沢 愛美  かなざわあゆみ。インフォメーションカウンター ちょい役
お客様 インフォメーションカウンターで尋ねる。ちょい役
鈴木 敏子  すずきとしこ。掃除担当 ちょい役
清水 健太郎 しみずけんたろう。スポーツショップ社員 ちょい役
車掌 電車内のアナウンス。 ちょい役


※兼ね役等のアイデアは後日掲載します。

本編

***
#エリスの世界
自然の中に住まいが存在するような世界
*SE:フェードイン・鳥のさえずり
*SE:森の中
*SE:ドアが開く音+草の音(草の扉のような印象)

(食卓を囲うように、母、姉がいる)
エリス:・・・おはよぉ
 姉 :おはよ、エリス
 母 :意外と早かったわね。朝ごはん、リリカラのスープできてるから食べちゃいなさい
エリス:・・・はーい。いただきまぁす
 姉 :エリス、
*スープを食べる音(食器とか同じようなイメージでOK)
エリス:なに?おねーちゃん?
 姉 :まーた、遅くまで起きてたんでしょ
エリス:うぇー、ブトラリート入ってるぅ ※ブトラリート(キノコの一種ちょっと苦い)
 姉 :もうすぐ17才になるんでしょ? ポエット(キノコ)のひとつやふたつ食べなさいよ
エリス:でもー、
 姉 :魔力も増えてくれないわよ? ゴブリンのオーディみたいになってもいいの?
エリス:いいよーべつにー、こんな苦いポエット食べるくらいだったらー、
 姉 :お父さんが取って来てくれたのよ。体に良いんだから、ツベコベ言わない
エリス:はいはい
 姉 :エリス? どうすんの? 今日やるの?
エリス:あ、そっか
 姉 :忘れてたでしょ?
エリス:えへへ
 姉 :やらないならいいけど?どうすんの?
エリス:やります!やります!おねーさま。クイーアリートの織り方、教えてください。おねーさま
 姉 :こういうときばっかり
エリス:ははーーーおねーーーさまーーー
 姉 :ちゃんとやるの?
エリス:(うやうやしく)ははーー、神様、デュレヒト様、お姉さま。千年に一度の奇跡!降臨されし、魔王様
 姉 :魔王は余計
エリス:お願いします
 姉 :じゃあ、ブトラリートもちゃんと食べなさい。いい?
エリス:えーー
 姉 :えーーじゃない。クイーアリートも織れないヴィアサーン族なんて情けないわよ?
エリス:はーい
*SE:スープを飲む、躊躇して、飲み干す。
エリス:うぇー、にっがーい
 姉 :ちゃんと食べたの?
エリス:はい、食べましたー、ごちそうさまでした
 姉 :じゃあ、ここに広げるから、スープの器はあっちにやっちゃいなさい
エリス:はーい。よいしょっと
*SE:魔法の音
*SE:食器がカタカタと飛んでいく
エリス:よっと
*SE:水の流れる音・止まる音
 姉 :いい?
エリス:ねぇ、なんでお姉ちゃんはクイーアリートそんなに上手に織りこめるわけ?
 姉 :練習したから
エリス:それはわかってるけどー、難しいんだもん
 姉 :エリス、勘違いしてない? クイーアリートを織ることって、魔法でモノを動かすのと同じ感じだって
エリス:え?違うの?アリートの糸を順番にこうやって、こうやって、こうやって、っていうところまではわかるの。だけど、うまく色が出てくれないっていうか、そろわないっていうか
 姉 :そこ。それが、ちがうところ
エリス:ちがう?どうちがうの?
 姉 :想像するの
エリス:想像?
 姉 :出来上がりの色合い、アリートの糸の一本一本が、きれいな色に輝くの、見てて
*SE:魔法の音(品がある)
エリス:そうやってできるのはわかるけどー
*SE:魔法の音カットアウト
エリス:あ、消えた
 姉 :はい、エリスやってごらん
エリス:どうするの?
 姉 :さっき、お姉ちゃんがやった色と同じのを想像するの、きれいな色になるのよーって、
エリス:きれいな色になぁれー
*SE:魔法の音、キレギレにたどたどしく
エリス:きれいな色にーー、んーーーー(息を止める)
 姉 :そうそう、そのまま、そのまま
エリス:(息を止める)
 姉 :そうそう、そのまま、そのまま、最後まで
エリス:(息を止められなくなって)ぷはぁ、はぁはぁ、無理、無理、最後までとか(しゃっくり)
 姉 :(笑)なんで息止めてんのよ、うふふふ
エリス:だってー(しゃっくり)
 姉 :はい、おねーちゃんのクイーアリート講座はここまでー
エリス:えー、もっと教えてよー(しゃっくり)
 姉 :いい?最初から絨毯とか掛け布団みたいな大きなもの造ろうとしなくていいから
エリス:えー。(しゃっくり)お母さんみたいに大きいの織りたい(しゃっくり)のに
 姉 :それができてから言いなさいね。
エリス:えー(しゃっくり)
 姉 :ん~そうね、
エリス:(しゃっくり)
 姉 :またしゃっくり止まらなくなってんの?
エリス:わかんな(しゃっくり)い
 姉 :お水取ってきてあげる。まずはオーディーにお守りでも作ってあげたら?
エリス:えー、コツ、(しゃっくり)もう一個だけ教えて
 姉 :出来上がりを想像するの。目の前に無い出来上がった完成形を想像するの
エリス:それ、(しゃっくり)さっきもきいたー
 姉 :大丈夫。想像するチカラは基本魔法より強いわ。集中してやんなさい。あら、オーディ
エリス:ちぇー(しゃっくり)
OD :なにやってんだよ、エリス?
エリス:見たらわかるでしょ?(しゃっくり)
OD :俺にもできるかな?
エリス:ゴブリンには無理(しゃっくり)
OD :もしできたら?
エリス:どこか知らない世界につれてってあげるー(しゃっくり)
*SE:(遠くで水の流れる音)
OD :しゃっくりとまらねぇのか?
エリス:(しゃっくり)まだ14、(しゃっくり)15回
OD :じいちゃんがさ、しゃっくり100回やったら、死んじまうって言ってた。
エリス:はいはい。迷信迷信
OD :俺にもクイーアリート教えてくれよ
エリス:こうやって、こうやってこう
OD :ぜんぜんきれいな色じゃねぇじゃんか
エリス:うるさいなぁー(しゃっくり)ゴブリンには無理。魔力が足りないもん
OD :俺の魔力だってゼロじゃねぇんだぜ?
エリス:はいはい
 姉 :はい、お水
エリス:今いい(しゃっくり)
OD :100回目に死んじゃうぞ?
エリス:んなわけ、(しゃっくり)ないし
OD :ユーリス姉ちゃん?
 姉 :なに?
OD :俺にもできるかな?
 姉 :無理とは言わないけど、クイーアリートは私たちヴィアサーン族の伝統だから
OD :そっか。エリス、すごいんだな
エリス:集中してるから話しかけないで(しゃっくり)あーーー、もう
 姉 :練習あるのみ。継続あるのみ。あきらめない。じゃ、がんばんな。またね、オーディ
OD :あーい

エリス:(N)何度やってもきれいな色が出ない。
 オーディにあげる小さなお守りですら作れないなんて。
 いつの間にか時間はたっていて、今日のいちにちが、できないままのクイーアリートの練習でおわってしまいそう(しゃっくり)
 オーディが隣に居るから絶対泣かないけど、ひとりだったら絶対泣いてた。
 ぜんぜんうまくいかない。(しゃっくり)泣きたいくらい、ぜんぜん、ぜんぜんうまくいかない。(しゃっくり)

OD :98回
エリス:数えてんの?(しゃっくり)
*SE:肩を叩くオーディ
OD :まぁ、そう嘆くな
エリス:嘆いてない(しゃっくり)
OD :99。
エリス:背中撫でてよ
OD :へいへい。
エリス:もうちょっと、羽の付け根のへん
OD :へいへい
エリス:私には、できないのかなぁ
OD :練習すれば大丈夫だよ。しゃっくりとまったか? 次で100回目だぞ?
エリス:知らない。っていうか、そんなの、止まるわけないじゃん(しゃっくり)

*SE:都心。電車の走る音。すべてをかき消される。


#東京。現代。
*SE:電車

エリス:(N)突然、目の前の景色が変わった。手に持ってたクイーアリートも無い。それどころか、掌は、少しだけ大きくなって、少しだけゴツっとゴツしてる。ゴブリンみたいな緑色ではないけど、

直哉 :なにこれ?

*SE:車掌アナウンス
車掌:本日も、小田急電鉄をご利用いただきましてありがとうございます。次は、イノガミ、次はイノガミです。車内が大変込み合っておりますこと、お詫び申し上げます。まもなく、イノガミーイノガミです。トンネルに入ります直前に大きく揺れることがございます。お立ちのお客様、ご注意ください。(ブチッっと雑に切れる)

エリス:(N)どこかわかんない。見たことも無い世界に居て、後ろから似たような種族の集団に押しつぶされそうになる。
 目の前の窓ガラスの文字は、見たことが無いはずなのに、なんとなく読むことができた。女性専用車両?
 次の瞬間突然暗くなって、大きく揺れた。
 真っ黒の窓ガラスの向こうで、瞳の黒い少年と目が会った。自分のほっぺたに手をやってみる。
 窓ガラスの向こうの少年も同じようにほっぺたに手をやっている

直哉 :もしかして、アタシ

*SE:車掌アナウンス
車掌:本日も、小田急電鉄をご利用いただきましてありがとうございます。まもなく、イノガミーイノガミです。ご利用ありがとうございました。ただいまのお時間大変混雑しております、前の方に続いてゆっくりとお降りください(ブチッっと雑に切れる)
*SE:電車のドアが開く
*SE:雑踏、駅のホーム

直哉 :うわぁあああ、びっくりした
恵理子:なーにやってん直哉、バカじゃないの
直哉 :え?
恵理子:LINE送ってくるから、何かと思ってみたら、女性専用車両に乗ったとか、あほなの?ばかなの? 痴漢でつかまっても助けないからね?なによこのスタンプ、朝からうかれてんじゃないわよ
直哉 :・・・・・・ら、『らっきー』?
恵理子:まだ寝ぼけてんの?
里奈 「エリー
直哉 :はい(呼ばれたと思って返事する)
恵理子:あ、おはよ~里奈~(りな~)。ねぇ、聞いてよ、直哉のバカが朝から女性専用車両乗ってくるんだよ、バカでしょ?
里奈 「だめだよー、チカンするなら、恵理子だけにしときなー
恵理子:ばかっ、なに言ってのよ
里奈 「あはははは
恵理子:ほら、直哉、ぼけっとしてないでいくよ
里奈 「どしたの? なんかへんじゃない? あ、そっか、眠いよね、1時間目来たとしてもいつも寝てるし
恵理子:ほら、行くよ?
里奈 「エリコ、
恵理子:なに?
里奈 「社会科見学とか言いながら、モール行かされるのめんどくさくない?
恵理子:ボランティアじゃんただの
里奈 「休んでバイトしたほうが社会のためかも
恵理子:いえてる
里奈 「なにやるんだろうね
恵理子:ねー

エリス:(N)私のことをナオヤと呼んだふたりの女の子は、社会科見学がどうとか言っていた。言葉は聴きなれないけれど、意味はなんとなくわかって、断片的に頭に流れ込んでくる。ここはどこなんだろう。本当の異世界なんて知らないけど、もし異世界があるんだとしたら、こんな世界なんだろうか・・・・・・なんて考えてた


里奈 「駅に迎えに来てくれるって言ってた
恵理子:どのへん?
SE:佐々木のヒールの足音が近づいてくる
里奈 「制服着てればわかるんじゃない?
佐々木:もしかして、陽向(ヨーコー)高校の見学の人かしら?
里奈 「おはようございます
恵理子:おはようございます
直哉 :・・・・・・
佐々木:制服かわいくなったねー。私も一応、卒業生。ショッピングモール『ポエット』の運営をしています、株式会社ワールド・イン・ザ・サンの広報担当をしています、佐々木です。よろしくお願いします
里奈 「よろしくお願いします
恵理子:よろしくお願いします
直哉 :・・・・・・
恵理子:(小声で)ちょ、ちょっと、直哉
直哉 :よ、よろしく・・・す
佐々木:あはは、緊張しないでー、大丈夫。かわいい男の子だからって、食べたりしないわよ。あはははは
里奈 :・・・
恵理子:・・・
佐々木:浜松里奈(はままつりな)さんと、
里奈 :はい
佐々木:清水恵理子(しみずえりこ)さん、
恵理子:はい
佐々木:それと、男の子が、朱鷺野直哉(ときのなおや)くん
直哉 :・・・
佐々木:で・・・合ってる?
恵理子:ちょっと、直哉
直哉 :え、あ、はい
佐々木:まだ朝早くて眠たいかなー?まぁ、とりあえず、行きましょうかね。ねぇねぇ、みんなは『ポエット』来たことある?
里奈 :あります
恵理子:私も、あります
佐々木:じゃあ、特別に社員通用口からいっちゃおうかな。入ったことないでしょ?
里奈 :ないです
恵理子:ないです

エリス:(N)佐々木です。と名乗った女の人が、ポエットっていうから、どんなキノコの生えたところに連れて行かれるのかと思ったら、大きな真四角に切り立った岩の塊のような、不思議な場所だった。案内されたドアをくぐると洞窟の入り口のような少し薄暗い場所があって、もうひとつドアを潜り抜けると、外の世界よりまぶしい光が広がっていた。


里奈 「ここに出るんですか!すごい!
恵理子:すごいねー

佐々木:じゃあ、簡単に。今日の社会科見学のメニューを。オープン前の10時までは、お店の準備を見ていってもらうわ。普段見慣れているお店の表側も、裏側も。10時には、そうね、女の子ふたりには、インフォメーションカウンターに制服を着て入ってもらおうかしら。お昼休みのあとは、実際に、お店の飾りつけをお願いしてみようと思ってるわ。スポーツショップの協力をもらっているから、マネキンに服を着せたり飾ったり。実際にやってもらうわね。じゃあ、よろしくお願いします
里奈 「よろしくお願いしまーす
理恵子「よろしくお願いしまーす
直哉 :よ、よろしくお願いします

エリス:(N)岩の内側の町は、どうやらお店がいくつもならんでいる場所らしかった。着るものも、食べ物も、カバンもアクセサリーも、どれもこれもキラキラ輝く光の下で照らされて、まぶしいくらいに鮮やかだった。一緒に来た女の子たちは、最初はやる気がなかったけれど、インフォメーションカウンターというところに居た着飾った美人なお姉さんと同じ衣装になって化粧までしてもらえることを喜んでいた。

佐々木:今日は、一旦ウラで着替えて、そのあと、化粧品売り場のお姉さんにちょっとだけきれいにしてもらおっか?
里奈 「いいんですか!
理恵子「ホントに?!
佐々木:インフォメーションは、ポエットの花形よ?せっかくきたんだから、一緒にご案内してもらわないとね
里奈 「なおやも化粧すればいいのに?
佐々木:トキノくんもする?
直哉 :え?あ、えっと
理恵子「バーカ、なに真に受けてんのよ。男子は搬入口って言われたでしょ?
佐々木:じゃあ、金沢(カナザワ)さん、ふたりをお願い
金沢 :はい、わかりました。じゃあ、制服に着替えにいきましょうか
里奈 :はーい
理恵子「はーい。直哉もしっかりね
佐々木:じゃあ、直哉くん、男の子は搬入口の様子を見学にいきましょうか?
直哉 :は、はい
佐々木:朱鷺野(ときの)ってめずらしい名前よね
直哉 :そ、そうなんですか?
佐々木:え?めずらしいわよね
エリス:(ど、どうしよう、わかんない。なに基準でめずらしいの?)
直哉 :えっと、佐々木さんも、めずらしい名前ですよね
エリス:(これでどうにかごまかせるかな)
佐々木:あー、これね。名札は下の名前にしてるけど、読める?
直哉 :えっと、えっと
エリス:(どーしよー読めないしわかんないし)
佐々木:弥生(やよい)っていうの。弥生時代のやよい。社会の勉強ちゃんとしてるの?あはははは
直哉 :やよいって、良い名前ですね
佐々木:男の子にはじめてほめられたかも。ふつーはさー、あれよ、竪穴式住居に住んでるんですか?とか言いやがって。草で編んだ家に住んでるわけないじゃんってね
直哉 :私も住んでます、草で編んだ屋根とか、木の枝のドアとか・・・・・・なんちゃって
エリス:(やばい、これ、ちがったかも)
佐々木:おもしろい子ね。おねーさんそういう冗談にノってくれるひと好きだなぁ。あ、お手洗いとか平気?そこにあるけど
直哉 :あ、そ、そうですね、ちょっと行ってきます
佐々木:男の子は奥ね
直哉 :は、はい
佐々木:じゃ、このあたりに居るから

SE:直哉の足音が少し響く

直哉 :どうしよう、ホントどうしたらいいのよ
OD :ふはーーー、無言でじっとしとくのもホント大変だなぁ
直哉 :も、もしかして、オーディー?
OD :お、なんでわかった
直哉 :もーどうしちゃったのよ?なんでぬいぐるみみたいになってんの?
OD :わっかんねぇよ、さっきまで話してたと思ったら急にうるせぇとこにいるし、ぎゅうぎゅう詰めでつぶされそうになってしゃべれねぇしで、たいへんだったんだぞ
直哉 :ねぇ、ここ、なんなの?
OD :さぁね、いわゆる異世界ってやつじゃねぇのか?
直哉 :異世界?
OD :だってそうだろ、こんな大きな鏡もなければ、勝手に水が出る場所なんてない。けど、あれだな、基礎知識みたいなのは、頭の中に流れ込んでくるから、ここが便所だってこともわかる
直哉 :それはそうだけど
OD :社会勉強だよ、社会勉強
直哉 :そういわれても、どうすんの、私、男の子になっちゃったみたいなんだけど
OD :いいじゃん。かっこいいじゃん
直哉 :あのねー、なりたくてなってるんじゃないの、早くもとにもどる方法をみつけなくっちゃ
OD :まぁな、俺もいつまでもぬいぐるみのまんまじゃ、めんどくさいしな、魔法も使えないし
直哉 :え?うそ
OD :やってみな?
直哉 :ううーーーん!
OD :はい、なにもおきなーーーーい
直哉 :うそでしょ。どうしたらいいの?
OD :とりあえず、あれだよ、うまいこと話をあわせて、今日のところは乗り切るしかないな
直哉 :はー、どうしたらいいのよぉ
OD :なにか手がかりが見つかるはずだよ。あ、あんま長いとさっきの女の人待たせるな
直哉 :そうね。
OD :男っぽくな
直哉 :そ、そうだな
OD :ふはははは
直哉 :わらわないでよ
OD :にあわねぇの
直哉 :うるさいわよ
OD :さぁ、いこう。男っぽく、絶対バレないようにな
直哉 :よし。大丈夫。私、ちがう、俺、がんばる
OD :そうそうその調子

エリス:(N)佐々木さんに連れられて、いろんな場所に行った。大きなトラックが次々走ってくるバックヤードというところ。それから、魚やお肉、野菜を小分けにして透明のラップとかいうもので包んでる場所、それから、冬より寒い、冷凍庫とか言うところ。ぬいぐるみになったオーディーもさすがに寒くて震えてたけど。それから、エレベーターとかいう乗り物。上に行ったり下に行ったり、ボタンを押したら体がふわっと浮くような変な感じがして気持ちわるい。けど、エスカレーターっていう動く階段は楽しかった。世界の全部があわただしく動いていて、世界の全部が、まぶしくて、輝いていて・・・・・・

***ナレーション中に差し込む***

佐々木:こっち、ほら、トラックはここにつくの
直哉 :へぇ~

佐々木:店頭に並べる準備をここでするのよ
直哉 :ほぉ~

佐々木:入ってみる
直哉 :ひぇぇぇぇ
佐々木:あはははは

佐々木:お客様が使う駐車場の安全管理も私たちの仕事のひとつ
直哉 :はぁ

佐々木:エスカレータの点検とお掃除も毎日、おはようございます(お掃除担当のおばちゃんに呼びかける感じで)
直哉 :ふ~ん。おはようございます(小声でぼそっと)

***ナレーションあけ***

佐々木:ちょっと休憩しよっか。そこ座ってて
直哉 :はい
*SE:ちょっと離れて自動販売機でジュースを買う音 2つ
佐々木:トキノくんはさー、
*戻ってくる数歩歩く佐々木
佐々木:あ、お茶よりジュースとかコーヒーのほうがよかった?はい、どうぞ
直哉 :どうも
佐々木:あ、社員証隠しとこ
直哉 :社員しょう?
佐々木:これつけてると、ここの社員だってバレちゃうから、バレるのはよくないでしょ?
直哉 :は、はい。そうですね、バレるのはだめですね。(冷や汗)
佐々木:お客様からクレームきてもつまらないから。今は休憩、休憩
直哉 :そうですね
佐々木:あ、いいのよ、飲んじゃって。女の子ふたりには内緒で
直哉 :あ、えっと
佐々木:貸してごらん、あけたげる
*SE:ペットボトルか缶を開ける音
佐々木:はい。いいのいいの。まじめだねーキミも
直哉 :あ、ありがとう、ございます
佐々木:わたしね、ここからの眺めが好きでさ。エスカレーター上がってきて、お客様駐車場の第3エントランスって呼んでるけど、この場所にベンチ置いたのアタシなの
直哉 :なかったんですか?
佐々木:基本的に、ベンチっていうか、椅子っていうか、そもそもそういうのあんまりなくて
直哉 :お店ぜんぶ見えますね
佐々木:そう。だいたい見渡せて、吹き抜けがどーんって向こうの一番奥まで広がってて、宣伝とか担当してるから、デジタルサイネージとかバナーとか
直哉 :サイネージ?
佐々木:あ、そっかわかんないよね。あそこに見える、デジタルポスター、ころころかわるやつ
直哉 :あぁ、あの、今、かわった
佐々木:そそ。あれが、デジタルサイネージ。それから、一番向こうで、どーんと横に文字が広がってるやつ
直哉 :オレンジと白の?
佐々木:そそ。あれが、バナーフラッグだっけ?バナーって呼んでるけど、ああいうのを定期的に変えていくの
直哉 :へぇ~
佐々木:大企業のモールさんは何十店舗っていっぺんにどさーってやるんだと思うんだけど、うちは、ここの本店と、西九図が池(ニシクズガイケ)って・・・
直哉 :ん???
佐々木:あ、わかんないか。東急藤が丘線のほうなんだけど、そっちとの2箇所だけだから、私含めて3人で全部考えて、つくったりしてるの
直哉 :へぇ
佐々木:店舗さんの出したい広告とかキャンペーンとか、色合いとか調整しながら。例えば、春だったらパステルとかやさしい明るめの色で、夏だったらパキっとしたちょっとドギツいくらいの色で攻めて、秋は、落ちついた色にして、冬はあったかい色とかクリスマスカラーとか。そういうの全体で調整しなきゃいけないから、なんていうか、ここから眺めて、想像して、よし、大丈夫。って、課長に提案する前に、気合入れて・・・とかして
直哉 :今のこの色の散らばり方も、弥生さんが想像したんですか?
佐々木:まぁ、私だけじゃないけど、たたき台の1番目のアイデアは、私かな
直哉 :すごいですね。いろんな色があふれてる
佐々木:こういう見方を知ってみると、さ、ショッピングモールもおもしろいでしょ
直哉 :はい
佐々木:ここに座って、うーん、どうすっかなぁーって悩んでる人もいるんだよ
直哉 :そうですね
佐々木:だけど、人間みんなそうだけど、魔法なんて使えないじゃん?だから、一個ずつ一個ずつやっていくしかないわけよ。自分の手を動かして、足で歩いて、あっちこっち頭さげて
直哉 :・・・
佐々木:いけないいけない、高校生のキミに言うことじゃないか。あはははは。
*自動ドア
鈴木 :やよいちゃん、まーたサボってんの?
佐々木:鈴木さん、サボってないですよ、今日は、
鈴木 :あぁ、高校生の子が来るの今日だったっけ?こんにちは
直哉 :こんにちは
鈴木 :3人じゃなかったの?
佐々木:あと2人は女の子だから、今頃、インフォメーションカウンターに制服を着て入ってもらってる
鈴木 :あぁ、あゆみちゃんとこ
佐々木:そうです
鈴木 :高校生のボクくん、やよいちゃん、ちゃんと教えられてる? へんなことばっかり教えられてるんじゃない?(笑)
佐々木:ちょっと、鈴木さんやめてくださいよ(笑)
鈴木 :うふふふふ。 お昼は? 社員の休憩室つかうの? 場所確保しといてあげようか?
佐々木:あ、そうですね。
鈴木 :3?4?
佐々木:4人分、1テーブルでお願いします
鈴木 :高校生のボクくん、楽しんでいってね
直哉 :は、はい
*立ち去る鈴木
*自動ドア
佐々木:鈴木のおばちゃんおもしろいでしょ。明るくてね。いっつも元気なの
直哉 :やさしいひとですね
佐々木:あら、いっけなーい、もうこんな時間。ふたりを迎えに行こっか
直哉 :はい

エリス:(N)ベンチから立ち上がって、改めて全体を見下ろした。妖精のお祭りみたいにあちこちでキラキラキラキラまぶしいくらいに輝いている。佐々木さんは、魔法なんて使えないと言った。嘘みたいだと思った。ここから見えるものがぜーんぶ、きれいで、まぶしくて、魔法でつくった、お姉ちゃんのクイーアリートみたいにきれいだった

直哉 :・・・おねえちゃん
佐々木:直哉くんもなんか悩んでるの?
直哉 :え、あ、いえ
佐々木:アタシなんか1年のほとんど悩みっぱなし。だけどね、小さな達成感があるのよ。それがおもしろいの。さぁ、いきましょーいきましょー
*SE:ふたりの足音フェードアウト

***

*SE:人の賑わいがフェードインしてくる
*SE:遅れて、金沢の接客の声が途中からフェードインして聞こえてくる

金沢 :こちらをまーっすぐ進んでいただいて、エスカレーターがございます、このエスカレーターが、あそこに見えるエスカレーターですので、2階へ上がっていただいて、この角を曲がったところの3つ目のお店でございます。
●お客様:これも使えるのかな?
金沢 :はい、そちらの商品券でしたら、全店でご利用いただけます
●お客様:「ありがとう
金沢 :ありがとうございます。いってらっしゃいませ
恵理子:いってらっしゃいませ
里奈 :いってらっしゃいませ
佐々木:あ、やってるやってる。どう?見て?かわいいじゃん?
直哉 :そう、ですね
恵理子:いらっしゃいませ。あ。
里奈 :あ、なおやじゃん
佐々木:おつかれさまー、
金沢 :おつかれさまです
佐々木:かわいーい
金沢 :ですよねー。ふたりとも似合ってますから、もう、このままここに居てもらってくださいよー
佐々木:そうね~、そうしてもらっちゃおうかなぁ。どうだった?
里奈 :ちょっと緊張します
佐々木:制服着てここに立つと、いつもとちがってみえるでしょ?
里奈 :はい。ぜんぜんちがいます。楽しい
佐々木:よかった。大丈夫?
恵理子:なんか変な感じで
里奈 :ずーっと緊張してるんです。普段出さないような声だしてるし
恵理子:ちょっとー
佐々木:それはがんばったね、おつかれさま。11時半になったし、休憩にしましょうか。ちょっとミーティングして、お昼
里奈 :はーい
恵理子:はーい
佐々木:あゆみちゃん、ありがと
金沢 :はーい
里奈 :ありがとうございました
恵理子:ありがとうございました
金沢 :いつでも来てね~
里奈 :はーい
佐々木:じゃあ、スタッフ用の休憩室があるから、そこに行きましょう
里奈 :はーい、あー、たのしかったー

*SE:足音が少し
*SE:フェードアウト

*休憩室
*ドアが開く音
*店内の音楽がもれて聞こえてくる
*ドアが閉まる
*店内の音楽が消える

佐々木:おつかれさまー、どうぞ座って座って
*SE:パイプ椅子的なのがガタガタ。座る
恵理子:あー、つかれたー
里奈 :あー、たのしかったー
佐々木:清水さんはああいうの苦手かしら?、あぁ、直哉くんもどうぞ座って
直哉 :あ、はい
恵理子:苦手ですー、なんか、笑顔を貼り付けとかなきゃいけない感じが
里奈 :あー、わかるそれ
佐々木:でも、制服も、お化粧も、インフォメーションのお姉さんって感じがしてたよー。ねぇ?(直哉のほうをむいて)
直哉 :そう、ですね
佐々木:浜松さんは?
里奈 :私はべつに平気。だけど、あゆみさんすごかった。商品券とかクレジットカードとか、トイレの場所とか、お店の名前と場所とか、すらすら答えてた
佐々木:あー、確かにすごいね
恵理子:アタシ無理。トイレ? はぁ?知らないし。地図見て。ってなる
里奈 :それ言ったらおしまいじゃん。うける
恵理子:あ、でも、車椅子のお客さんのステッカーっていうの?車に張るやつ
佐々木:うんうん
恵理子:ああいうのとかあるんだって初めて知った
佐々木:確かに、あれもここ2年くらいの取り組みかな?
恵理子:そういうのもインフォメーションで全部やってるから、なんか
里奈 :すごい
恵理子:無理。
佐々木:無理って、あきらめないで。さて、午後からは、スポーツショップでひとしごとでーす。
里奈 :なにやるんですか?
佐々木:ショーウィンドウを飾ってもらいます
恵理子:こういうあれ?
里奈 :なんだっけ?
佐々木:そそ、マネキンの飾りつけ
里奈 :へぇー、たのしそー
佐々木:1時すぎって言ってあるから、えっと、おひるやすみしっかりとろっか。よいしょっと
SE:佐々木椅子からたちあがる
佐々木:えっと、メイク落としとか一式あるから使ってね。あと、みんなのお弁当。お茶もあるから、ゆっくり食べてくださいね
SE:お弁当を置く音、包み紙の音、お茶のペットボトルを置く音
里奈 :はーい
佐々木:じゃあ、私は、とりあえず、事務所にいますので、すぐそこだから、なんかあったら言ってね。
里奈 :はーい
恵理子:はーい
SE:佐々木はなれる。ドアの音
恵理子:つかれたーーー
里奈 :あはは、グダグダ。メイク落とす?先ご飯?
恵理子:もうごはーん
里奈 「ん。じゃ、はい
恵理子:つかれたー
里奈 「はい、お茶も
直哉 :ありがと
里奈 「いただきまーす
恵理子:直哉は?どうだったの?いただきます
直哉 :えっと、トラックとか、お肉屋さんとか魚屋さんとか、見てきた
恵理子:えーそれだけ?
直哉 :駐車場とか、エレベーターとか、エスカレーターとか、いろいろ
里奈 :あ、おいしい
恵理子:ふーん。
里奈 :なんか、エリコ怒ってる?
恵理子:別に、おこってない
里奈 :あー、あれでしょ?
恵理子:ちがうし、っていうか、直哉くんって呼ばれてなにいい気になってんのよ
直哉 :え?
里奈 :あはは、やいてるやいてる
恵理子:ちがうし
鈴木さん「あー、いたいた。
直哉 :さっきはどうも
鈴木さん「こんにちは
里奈 :(ほおばったまま)こんにちは
恵理子:(だれ?)こんにちは
鈴木さん「あのね、これ、1階の行列できるとこの
里奈 :わーーー、善福寺のからあげ
鈴木さん「おいしーのよー、知ってる?
里奈 :まだ食べたこと無い
鈴木さん「お弁当もあったのね。多かったかしら?でも、男の子もいるから大丈夫よね
里奈 :はい、おなかいっぱいになったら、直哉に責任持って残さず食べさせます
鈴木さん「はーい、そうしてちょうだい。午後からもがんばってね
里奈 :はーい、ありがとうございます
直哉 :ありがとうございます
里奈 :おいしーーーい。やばいこれ
直哉 :あ、おいしい
恵理子:だれ?いまの?
里奈 :いいから食べなって、おなかすいてるんだよ
恵理子:だから、だれ?いまの?
直哉 :(食べながら)掃除のおばちゃん
恵理子:本気のおばさん?なに?ホンキのおばさんって?なに?
里奈 :ほんきのおばさんってなにそれ、うける
恵理子:ずいぶんと人気者ですね(直哉に嫌味)
里奈 :いいから食べなって。からあげなくなるよ。はい、あーーーーん
恵理子:あーーーん。ん! おいしーーーーーーー!なにこれ!マジヤバイ
里奈 :これが、本気のおばさんのホンキ
恵理子:・・・・・・マジヤバイ無理


 ***

*スポーツショップ前より
清水 :はい、こんにちわー
恵理子:(小声で)こんにちは
里奈 :(小声で)こんにちは
直哉 :(小声で)こんにちは
清水 :元気がないぞー!はい、こんにちわー
恵理子:(小声で)こんにちは
里奈 :(小声で)こんにちは
直哉 :(小声で)こんにちは
清水 :テンション低いけどいいかー、えー、社会科見学に来たみんなには、こちらのマネキーンに飾り付けをしてもらいまーす
恵理子:佐々木さん来なかったのずるくない
里奈 :来なかったのなんとなくわかるけど
清水 :いいかい?
恵理子:あ、はい
清水 :これからの、季節は、れっつサマータイーム、おーけー?
恵理子:あ、はい
清水 :スポーツの季節ですねー、おーけー?
恵理子:いえ、あんまり
清水 :おーけー!というわけで、この3つのマネキーンに、好き勝手着せちゃってください、以上!れっつ、すたーーーと
恵理子:ちょちょちょちょ、ちょっと待って、
清水 :どうかした?
恵理子:説明短くてびっくりしてるんですけど、
里奈 :私ももうちょっとある流れかと思って油断した
清水 :おぅけーい。つ・づ・き★聞きたいみたいだから、仕方ないね、お姫様★
恵理子:うざいな
清水 :ご覧の通り、マネキーンは3体。君たちも、3体
恵理子:3体って
清水 :それぞれがひとつずつでもいいし、ティームワークスのチカラアンドパワーでババっとドーンっとやっちゃってもいいわけ。おぅけぇ?
里奈 :良くない
清水 :アイテムは、この『スポーツショップどどんぱ』の中にあるものならなんでもおうけぇ
恵理子:え?全部?
清水 :みんなの努力と汗と涙の結晶が完成したあかつきには、なんと、夏休みの終わりまで、このまま放置して晒します。あ、言い方悪かった、長期的に飾らせていただきます
里奈 :うっそやばくない
清水 :学校名と苗字入れて置いとくんで、気合い入れてやってくれたまえ!
恵理子:うっそ、やばくない! 直哉!ちゃんとやってよ!
直哉 :え、え、うそ
清水 :大丈夫、君たちならできる、できる、できる、できちゃうぞー、信じるんだ、信じるんだ、負けない、負けない、絶対、まけない
里奈 :ハイ!せんせい!がんばりますっ!
恵理子:りな?
清水 :がんばろう、清水さん
里奈 :ハイせんせい!がんばります!けど、アタシ浜松。清水じゃない
清水 :おーーーうけーーーい。じゃあ、僕は店内にいるんで、なんか困ったことあったら、店長に聞いて
恵理子:え?
清水 :あそこにいるでしょ? あの怖そうな人
恵理子:マジで?
清水 :テーマは、夏。イン・ザ・サマーー。よろしくー
直哉 :夏かぁ
里奈 :やばい、なんか、ときめいた
恵理子:りな?
里奈 :なんかひとまわりしてヤバイかも。やばくない?
恵理子:うん、いろんな意味でやばい
里奈 :夏っていえばさー、ひと夏の恋★みたいな?
恵理子:あーうん、はいはい
里奈 :このマネキンが女子で、こっちのマネキンが男子でー
直哉 :一番右のは?
里奈 :親戚かなんか
恵理子:親戚って
里奈 :3つ使わなきゃいけないってこともないわけじゃん?
清水 :失礼しまーす、後ろ、台車通りまーす。マネキン3つ使ってくださーい
恵理子:だって。
里奈 :はい。せんせい★
恵理子:ぜんぜんわかんないんだけど
直哉 :海にする?それとも、山?
恵理子:どゆこと?
直哉 :あそこのバナーにさ、『あなたは、海派?今年は山派?って書いてあって』
恵理子:トランペットはじめませんか?って音楽教室じゃん?
里奈 :あー、でも、恋人と行くなら、海かな?
直哉 :じゃあ、海にする?
恵理子:海?どうすんのよ?
里奈 :このマネキンが女子で、こっちのマネキンが男子でー
直哉 :一番右のは?
里奈 :店長かなんか?
清水 :失礼しまーす、後ろ、台車通りまーす。店長だったら好きに埋めちゃってくださーい
直哉 :埋める?
里奈 :だってさ
恵理子:じゃあ、あっちの、水着とか?浮き輪とか?
里奈 :そだねー

エリス:(N)水着とか、浮き輪とか。
 イルカとかシャチと呼ばれる黒とか青色の湖に住むデイルラークを小さくしたみたいなおもちゃを恵理子さんに言われてかついで持ってきた。
 ビニールっていう素材の色合いは、なんとなく魔法で作ったしゃぼんだまみたいできれいだったし、手のひらにぴたっとはりつく感じも湖の周りに生えたウィルポッポの葉っぱみたいだった。
 とにかく持ってきて、裸のマネキンに服を着せていく。
 服を着せるときだけ、店員の清水さんが手伝ってくれたし、無言のまま店長は黙々と腕と足を解体してくれた。
 ばらばらになったマネキンを組み立てながら、腕をつけたり頭を差し込んだり。
 魔法があったら、楽なのに。なんてちょっとだけ思ってしまった。

清水 :また、大変な作業は手伝うからね~
里奈 :はーい
恵理子:おー、なんか服着るとちがうね
里奈 :やばい、バカップル誕生
直哉 :こっちは?
里奈 :とりあえず、Tシャツとジャージでよくない? 店長だし
恵理子:直哉、とりあえず、Tシャツとジャージ
里奈 :店長が着てるの脱がせてきて
直哉 :え?
里奈 :冗談★
恵理子:アタシらちょっと休憩するー。なんかてきとーに持ってきてよ
直哉 :わかった

エリス:(N)お店の中から、Tシャツとジャージを探し出す。
 スポーツウェアというところに3本の線が入ったのとか、ニワトリのマークが入ったのとか、
 走っている猫のようなイラストが入ったものもあったりした。
 店長が着ている服を参考にして、それっぽいものを探す。夏だけど、長袖。それも雰囲気があって良いかも知れない

佐々木:おつかれさま。どう?直哉くん?
直哉 :あぁ、佐々木さん
佐々木:半分くらいできあがってるね
直哉 :いま、このあたりのジャージでしたっけ?を探してます
佐々木:え?でも、ふたりは水着着て浮き輪もってなかった?
直哉 :えっと、最後のひとりは、店長さんらしくて
佐々木:あぁ。おもしろいね
直哉 :里奈さんが、なんだか上手で。
佐々木:浜松里奈さん?
直哉 :うん。何も着てない直立不動のマネキン見て、こっちが男子でこっちが女子で、恋人で~って。なんだか、完成したあとが見えてるみたいで
佐々木:あー、確かにそういう想像力がキーポイントかもね
直哉 :想像力?
佐々木:そそ。どんな風にできあがるかな?って、さっき、駐車場のエントランスから見下ろしたでしょ、あそこから
直哉 :はい
佐々木:あんな感じ。頭の中で、出来上がりを想像してみるのよ。完成させちゃうの。少し離れたところから見てみて、ここからみてごらん
直哉 :うん
佐々木:左の女の子と、真ん中の男の子。二人向きあって、ラブラブしてるでしょ?
直哉 :はい
佐々木:だから、残る右マネキン、気をつけして、右腕だけ外れてる店長がさ、
直哉 :はい
佐々木:どんなポーズで、どんな服着て、表情はないけど、どんな顔して立ってるか?むしろ、なにか叫んでるかもしれないし
直哉 :そっか
佐々木:自分の想像の中にしかない世界をさ、目の前に、持ってきちゃうのよ
直哉 :そっか。
佐々木:あ、良い顔してる
直哉 :おもしろくなってきました。魔法は使えないけど。あ。
佐々木:うふふ、出来上がるの楽しみにしてるね。今の直哉くんみたいに、走り回って、汗かいて。できあがったときに、お客さんからしたら、魔法みたいに見えるはずよ。がんばって
直哉 :ハイ、がんばります

エリス:(N)一番右の店長マネキンがどんな格好で、どんなポーズをとっているか。
 ふと、店長を目で追いかけた。壁のポスターを指差して、清水さんになにか指示を出していた。
 荷物を運ぶカートの上には、野球のバットとグローブと、バスケットボールと、バレーボールと、テニスのラケットと、自転車の車輪が乗せてあった。
 店長がアツイ人なら、砂浜だろうがなんだろうが、とにかく全部持ってきちゃうかもしれないと思えた。
 マネキンの前に立って、目を閉じる。
 目を開けたら、「おまえらいくぞーなんて吼えている店長が見えてきて、なんとなく、波の音が聞こえてきたような気がした

恵理子:なにニヤニヤしてんのよ、
直哉 :店長マネキンやっていい?
恵理子:いいよ。ねぇ?里奈?いいでしょ?
里奈 :いいよー
恵理子:アタシトイレ行ってくる
里奈 :はいはーい
直哉 :よし、
里奈 :手伝うよ
直哉 :ありがと
里奈 :黒ジャージ上下とか、今日の店長まんまじゃん
直哉 :店長って言うから
里奈 :こっち持っとく、はかせて、それ。なんか良いの浮かんだ?
直哉 :うん、ありがと
里奈 :先、上半身着せたら?
直哉 :うん
里奈 :ねぇ直哉?
直哉 :よいしょっと、いい感じ。なに?
里奈 :次、店長の頭、はい
直哉 :うん。
里奈 :あのさ、今日の直哉、直哉じゃないよね?
直哉 :え?
里奈 :あなた誰?
*SE:店長の頭が落ちる音
直哉 :……。
里奈 :……。
直哉 :いやいやいやいや、僕は僕だって、な、そんな
里奈 :直哉は僕とか言わないし
直哉 :いやでも
里奈 :ってか、あなた、誰?
OD :しかたねぇな、ばれちゃぁな
里奈 :え?!なにそれ!
直哉 :ちょっとオーディー!
里奈 :しゃべったー!
OD :我が名はオーディー!ファクトールのゴブリン!
里奈 :!!!
直哉 :ちょっとオーディーダメよ、喋っちゃ
里奈 :かわいいいいいいいいい!
OD :話せば長くなるが、聞いてくれるか?
里奈 :うん。きく
OD :俺は今朝までファクトールに居たんだ。魔鳥ヴィエットはさえずり、魔竜キードルは朝日に羽ばたいた。その刹那、俺とエリスは異世界に飛ばされたんだ。
里奈 :エリス?
OD :こいつさ。今は仮の姿。だが、本当は、ヴィアサーン種族の少女。背中には羽があり、数千数億の魔法を操るフェアリーなのさ
里奈 :マジで!
OD :マジで。
里奈 :じゃあ、直哉の中身って女の子なの?
OD :お嬢ちゃん話が早えぇじゃねぇか
里奈 :マジで?!
直哉 :アタシは、一応、女の子で
里奈 :魔法使えるの?
直哉 :今は使えない。何度か試したけど、今のこの体じゃ、全然魔法使えないの。精霊の声も聞こえないし
OD :信じてくれるんだな
里奈 :うん。信じる
直哉 :でも、友達の男の子が、急に女の子だったとかって言われても
里奈 :え、全然平気。だって、直哉はうざいけど、今日の方が好き。だって優しいし、ありがとうとかちゃんと言うし、真面目だし、たぶん、目の色ちょっとだけ緑色な気がする。ってか、なんか話しやすいし
直哉 :直哉くんって、
里奈 :直哉はただのバカでクズでアホ。時々死ねば良いのにって思うくらいにはウザいよ。ちょっと顔がいいから、中身知らない女子から正直人気だけど
直哉 :そ、そうなんだ
里奈 :あはは。やっぱり中身が直哉じゃないんだね。面と向かってこんな悪口言ったら、すぐ怒るもん
OD :でもなぁ
里奈 :どうしたの?
OD :帰り方がわかんねぇんだよ
直哉 :そうなの
里奈 :あぁ、元の世界に帰る方法ってこと?
直哉 :そうなの
里奈 :いいじゃん、帰んなくて。
直哉 :え、でも
里奈 :あ、でもそっか家族とかいるよね?
直哉 :なにも言わずにこっちに来ちゃったから
里奈 :それは困ったわね
直哉 :うん。恵理子さんにも相談した方がいいかしら
里奈 :恵理子には、言わない方がいい。絶対ダメ。
OD :やっぱりな
里奈 :うん。ちょっと頭硬いところあるっていうかアレ、直哉のこと超好きだからあの子。バレたら、
直哉 :……バレたら?
里奈 :殺される
直哉 :……
OD :マジでか?
里奈 :可愛い顔してるけど、こっちの世界の凶悪なモンスターの類(たぐい)はもう、このくらいはやっちゃってるはず
直哉 :4、体?
里奈 :ううん。400。むしろ、500いくかも。昨日見たらレベルMAXだったし、超強いから
OD :噂をしてたら帰ってきたぞ俺はしばらく黙ってるから、バレるなよ、ふたりとも
直哉 :うん、わかった
里奈 :エリスちゃん、大丈夫だから
直哉 :うん。ありがとう

OD :(N)ハンカチで手を拭いながら帰ってくる彼女のその姿は堂々としていた。
 一歩一歩を踏みしめるその赤いスニーカーは、あまたの激戦を潜り抜けてきた猛者(もさ)の証(あかし)だ。
 ふと立ち止まって目を細めて遠くに目をやる。
 彼女の視線の先に、おもちゃ売り場ではしゃいでいる子どもの姿があった。
 もしもそこにモンスターがいたら、一瞬のうちに血の海と化すだろう。
 むしろ、モンスターを、いや、凶悪な化け物をしとめるのは、きっと、一瞬だ。

恵理子:ちがったか

OD :(N)今日はどうやら騒ぎにならずに済みそうだ。

里奈 :おかえり。どうかした?
恵理子:このあいだ居たモンスターペアレンツのこどもかと思って
直哉 :・・・・・・も、モンスターペアレンツ
里奈 :あー、いたね
恵理子:ちがった

OD :(N)もしも、モンスターペアレンツというモンスターの子どもだったらどうなるのだ?
 まさか、殺(あや)めたモンスターの子どもまで、残さずその命を奪おうというのか。ちょっとかわいい顔しておきながら、恐ろしい

恵理子:っていうか、どうすんの? 店長、沈めちゃう?
里奈 :ねーどうしようね。
OD :(N)沈める?沈めるというのは、まさか、次のターゲットは店長だとでも言うのか?

里奈 :とりあえず、ジャージ着せたけど
恵理子:ねえ、直哉?
直哉 :は、はい!
恵理子:店長殺っといてくんない?
直哉 :や、やる?
恵理子:反論はなし。うちら、もう、やったんだから、ちゃんとやってよ
直哉 :えっとえっと
里奈 :直哉ならやれるよ
直哉 :えっと
恵理子:やるわよね? 殺んないっていうとか無しだから。殺すわよ?
直哉 :や、やります、やります、やらせていただきます
恵理子:じゃあ、よろしく。ねぇ、りなー、サーティーワンいかない?
里奈 :あ、いいかも
直哉 :さーてぃわん?
恵理子:は?(何その反応?)
里奈 :15分くらいで戻ってくるから、なおやくーんよろしくー
恵理子:よろしくー
里奈 :いこー
恵理子:清水さんとか佐々木さんに言ったらぶっ殺すから
直哉 :なんていえばいいの?
里奈 :そうね、参考にほかのお店のショーウィンドウ見に行くって言ってた。とか
恵理子:そうね、それがいい
里奈 :行こう、行こう
恵理子:よろしくー
里奈 :アイス★アイス★。
恵理子:あ、ダブルじゃなくてトリプルにしようかなー
里奈 :あーそれいいかも

*SE:二人があるいて離れる

直哉 :どうしよう。殺される
OD :あの目はホンキだったぞ
直哉 :とりあえず、店長をやらないと
OD :待て待て、早まるな。店長も人間だ。な、エリス?
直哉 :ん? 店長はマネキンだよ? これ、頭つけて飾りつけないと
OD :あ? あーーー、マネキンのことか
直哉 :オーディー?
OD :マネキンだよなー。あーびっくりしたー
直哉 :どうかしたの?
OD :いやぁ、なんでもないぞ。飾り付けのプランは?
直哉 :とりあえず、いまのところ出来上がってるこっちの男の子と女の子をまったく無視して、店長マネキンだけいろいろやりたがってる感じに
OD :よし、なんとかなりそうだな
直哉 :うん。やってみるよ
OD :しかしあれだな、
直哉 :なに?
OD :サーティーワンってなんだ?
直哉 :あー、アタシも気になった。
OD :もしかして、狩りに行ったのかな?
直哉 :狩り?
OD :ダブルじゃなくてトリプルって言ってたし
直哉 :トリプルって、
OD :たぶん、専門用語だよ、
直哉 :なんとなく3つ重ねた?的な感じじゃないの?
OD :凶悪なモンスターを400とか500殺しちまうんだぞ?そんなやつが使うキーワードなんだぞ?
直哉 :この世界はずいぶん平和そうに見えるのに
OD :平和そうに見えるだけだ。さっき確かに『殺すぞ』って言われたじゃないか
直哉 :そ、そうだけど
OD :油断ならねぇな。まぁ、帰ってくるまでに目処つけないと、命が危ういぞ、エリス
直哉 :とりあえず、やろう。うんやろう

エリス:(N)私はとにかく、お店にある道具をとにかく持ってきた。
 バットとか、いろんな種類のボールとか、スポーツ用の靴も変わったもののほうがいいから、
 水鳥のアービックみたいな黄色い足ヒレに良く似たクツをはかせることにした。
 魔法が使えないから運んでくるのが面倒だけど、汗をかくのがなんとなく気持ちよかった。
 さっき想像してた店長マネキンの楽しい姿を思い出しながら、
 恵理子さんに殺される恐怖で忘れないうちに、やりきることに決めた。

鈴木 :あら、高校生のボクくんもがんばってるのね
直哉 :あぁ、さっきはカラアゲありがとうございました。おいしかったです
鈴木 :あら、それはよかったわ。マネキンさんたちがずいぶんとにぎやかになったわね
直哉 :あ、ありがとうございます
鈴木 :一度、遠くから眺めてみたら?
直哉 :遠くから?
鈴木 :遠くからって言っても、そうね、おいで
直哉 :はい
鈴木 :このくらいからかしら
直哉 :わぁ
鈴木 :にぎやかでしょ?
直哉 :あともう少しです
鈴木 :あの子もね、この6年間くらい七転八倒しながらがんばってきたのよ
直哉 :あの子?
鈴木 :さっき一緒にいたじゃない?佐々木弥生ちゃん
直哉 :あぁ
鈴木 :高校生3人ががんばってるのを見ててね、思い出しちゃったのよ。
 弥生ちゃんね、一生懸命つくった企画書しわくちゃにしてね、上の自動販売機の前で泣いてたこともあったし、
 『どうやったら、上司っていうおっさんたちは理解してくれるんですか?』って。
 だけど、ようやくかなぁ?
 告げ口みたいでやーねー。私が言ったって言わないでよ?
直哉 :あ、はい
鈴木 :女の子ふたりも、まじめな子ね。アイス食べながら、お店の飾りつけをあーでもないこーでもないって、
直哉 :ホントに見に行ってたんだ
鈴木 :私は掃除をしてるだけの人だから、販売のことはわからないけど、今日、3人が来てくれたことで、なんだか大人たちもがんばってるのよ。不思議
直哉 :そうなんですか?
鈴木 :そうよー。インフォメーションのあゆみちゃんも気合い入ってたし、もともとこのスポーツ屋さんの店長さんも清水さんも熱心でまじめでよく働く人たちだけど、物を売るのは大変だから。ずーっと続けていくってどうしても息切れしちゃうのよね
直哉 :お掃除も、大変ですよね。魔法が使えたらすぐに終わるのに
鈴木 :あら? 魔法みたいなものよ?お掃除も
直哉 :え? 魔法使えるんですか?
鈴木 :チチンプイプイのプイッ!ってわけにはいかないわよ? 『ひとつずつひとつずつ』って呪文を唱えながら手を動かすしかないんだけどね。
 それでも、今日来てくれたお客さんには、この場所が特別な場所だと思ってもらいたいじゃない?
 だから、歩き回って、手を動かして、雑巾で何回も拭いて、何回もしぼって。気づかれないうちに、ずっときれいなまま。
 オトナになるって、おばちゃんになった私でもよくわからないんだけどね、
 うまくできないことの繰り返しなのよ
直哉 :うまくできないこと・・・
鈴木 :そう。うまくできないことばっかり

 **回想シーン**
 姉 :エリス? どうすんの? 今日やるの?
エリス:やります!やります!おねーさま。クイーアリートの織り方、教えてください。おねーさま
エリス:お願いします
 姉 :じゃあ、ブトラリートもちゃんと食べなさい。いい?
エリス:えーー
エリス:うぇー、にっがーい
エリス:ねぇ、なんでお姉ちゃんはクイーアリートそんなに上手に織りこめるわけ?
 姉 :練習したから
エリス:それはわかってるけどー、難しいんだもん
 姉 :エリス、勘違いしてない? クイーアリートを織ることって、魔法でモノを動かすのと同じ感じだって
エリス:え?違うの?アリートの糸を順番にこうやって、こうやって、こうやって、っていうところまではわかるの。だけど、うまく色が出てくれないっていうか、そろわないっていうか
 姉 :そこ。それが、ちがうところ
エリス:ちがう?どうちがうの?
 姉 :想像するの
エリス:想像?
 姉 :出来上がりの色合い、アリートの糸の一本一本が、きれいな色に輝くの、見てて
*SE:魔法の音(品がある)
エリス:そうやってできるのはわかるけどー
*SE:魔法の音カットアウト
エリス:あ、消えた
 姉 :はい、エリスやってごらん
エリス:どうするの?
 姉 :さっき、お姉ちゃんがやった色と同じのを想像するの、きれいな色になるのよーって、
 姉 :出来上がりを想像するの。目の前に無い出来上がった完成形を想像するの
 姉 :大丈夫。想像するチカラは基本魔法より強いわ。集中してやんなさい。
 姉 :練習あるのみ。あきらめない。じゃ、がんばんな。

  **回想シーンここまで

鈴木 :たこ焼きやさんも、からあげやさんも、ドーナツやさんの女の子も、レジ打ちの子だって、アパレルの男の子も女の子も、店長さんだって失敗してるとこしか見てないくらい。いっぱい失敗して、いっぱい泣いて。
 だけどね、
直哉 :継続あるのみ、あきらめない。ですね
鈴木 :そう。あきらめなかったら、その努力は自分に返ってくるものよ
直哉 :そうですね
鈴木 :高校生のあなたに言うことじゃないわよね、やだわー。おばちゃん説教くさくなっちゃうのよー、どうしましょう
直哉 :私、ここに来させられた理由が、なんとなくわかった気がします
鈴木 :あら、そう言ってもらえると、うれしいわねぇ。社会見学を受け入れる提案をした弥生ちゃんも喜ぶわ。それに、
直哉 :それに?
鈴木 :あなたも、今日のお昼からの2時間ちょっとで、ステキな魔法をかけちゃってるじゃない? ほら
直哉 :もうちょっとでできあがります。あとは、3人で完成させます
鈴木 :そうね。ごめんなさいね、忙しいのに
直哉 :いえ、ありがとうございます
鈴木 :がんばってね
直哉 :はい

エリス:(N)ステキな魔法。思い描いた想像に、物を合わせて飾っていく。
 物を置いたら、また強く思い描いて、その色を合わせていく。
 何度も何度もやり直して、何度も何度もお店の中の商品を探しに行って、持ってきて
 時間がかかって、指先も腕も、足も疲れて、だけど、

直哉 :できたー
里奈 :やるじゃん
直哉 :あ、帰ってきてたんだ
恵理子:だって、話しかけづらいっていうか
里奈 :集中してたし。恵理子がさ、直哉のこと
恵理子:ちょっと、りな
里奈 :かっこいいって言ってたよ
恵理子:・・・・・・バカ
直哉 :ありがと。
里奈 :恵理子も、今日の直哉ちがうって言ってた。
直哉 :うん。今日の、直哉くんは、直哉くんじゃないから
恵理子:え?
里奈 :いいの?
直哉 :うまくいえないけど、アタシ、この世界とはちがうところから来た、エリスっていうの。
恵理子:エリス?
直哉 :うん。それと、こっちが、オーディー。
OD :わりいな、隠してて
恵理子:は?え?なに?え?
直哉 :わたしもよくわからないんだけど、どうしてこの異世界に迷い込んだのか、飛ばされたのか。だけど、わかった気がするの
里奈 :わかった?
直哉 :どうして、こっちの世界に、直哉くんの体を借りて、来たのか
里奈 :なんかすっきりした顔してるね、エリス
直哉 :うん。だけど、もうすぐ戻れそうな気がするの、元の世界に
里奈 :わかるの?
直哉 :うん。精霊の感覚っていうか、そういうのが、戻ってきてるっていうか、
恵理子:よくわかんないんだけど
里奈 :恵理子、とにかく、今は、時間が無いの
恵理子:はぁ?
直哉 :心臓がドキドキ言ってる
OD :俺もだ。カウントダウンが始まってる感じ。ゼロになったら
里奈 :ゼロになったら、元に戻るってこと?
直哉 :わからないけど、そんな気がする
OD :ほぼ、確信。
里奈 :仕上げしよう。一緒に、完成させよう。ね。あたしたち、見てきたの、飾ってるマネキンの使い方とか、お店の人に教えてもらったり、コツとかそういうの聞いてきた
OD :よし、時間が無い、
里奈 :やるよ、えりこ
恵理子:うん。いいけど、ぜんぜんわかんない
里奈 :いいから、やるの。ね、エリス
直哉 :うん

OD :(N)3人は最後の仕上げにとりかかった。タイムリミットは迫っていた。
 残り時間がどれだけなのかはっきりとはわからないけど、ぬいぐるみの身体に妖精の魔力が少しずつ流れ込んでくる。
 これが満ちたとき、俺が見ている世界が変わる。そんな気がした。
 不定期な鼓動が、強くなってくる。おなかのそこから突き上げられるような感覚が、強く、俺たちを引きずり込もうとする。
 こ、この感覚は、もしかして

直哉 :しゃっくりだ
里奈 :こっちにボール置こう。
直哉 :うん。
恵理子:ビーチサンダルここ置くね
直哉 :自転車、このへんでいい?
里奈 :もうちょい、右、右、そこ!
直哉 :恵理子さん、ビーチボールもうちょっと左、左、いきすぎ、左、そこ!
里奈 :いい感じじゃん。
直哉 :できたね
里奈 :まだ、エリス?
直哉 :うん。だけど、もうちょっとかもしれない。手のひらに魔力が戻ってきてる感じがする
里奈 :これ、魔法じゃない?
直哉 :うん。時間かかったけど
里奈 :恵理子、こっち来てみてなよ
恵理子:待って、行く。
里奈 :ちょっとさみしいな
直哉 :里奈ちゃん、信じてくれてありがと
里奈 :信じたほうがおもしろいじゃん?嘘じゃないんだし
直哉 :うん。ありがと
OD :ありがとな
里奈 :うん
恵理子:あー、できたね。
OD :あー、もうすぐだな
直哉 :そうだね
恵理子:なにが?
里奈 :元の世界にもどっちゃうのかな?
OD :まちがいねぇな
直哉 :弥生さんにも、掃除のおばちゃんにもさよなら言えそうにないかも
里奈 :うまく伝えとく。まかせて
直哉 :ありがと。(しゃっくり)
OD :きたな、しゃっくり
恵理子:しゃっくり?
直哉 :こっちに来るときも、しゃっくりが止まらなかったのよ。だから、たぶん(しゃっくり)
里奈 :しゃっくり100回やったら死んじゃう的なこと?
直哉 :こっちの世界でも言うんだね
里奈 :そっちの世界でもいうの?
直哉 :うん。死んじゃうって
里奈 :おかしい
恵理子:死んじゃうってなにが?
里奈 :直哉。死んじゃう
恵理子:え?
OD :エリス、俺を握っててくれ。戻る瞬間が近い
直哉 :うん。わかった
OD :くるぞ、
直哉 :恵理子さん、里奈ちゃん、ありがと(しゃっくり)
里奈 :また、会えたらいいな
直哉 :うん。またね
里奈 :またね
OD :来た。さらばだ
直哉 :(しゃっくり)
*SE:心臓のドクドク音
恵理子:直哉?! なおやーーーーーーーーーー!(エコーがかかる)
*SE:輝きの音


*SE:静かな森の音
*SE:鳥のさえずり

OD :大丈夫か?
 姉 :エリス?
 母 :エリス?
エリス:・・・・・・
 姉 :エリス?エリスなの?
エリス:ん、ん、、ん? ここは?
 母 :エリス?エリスなの?
エリス:おかあさん
 母 :エリス
エリス:おねえちゃん
 姉 :エリス
エリス:苦しいよ、そんなぎゅってしたら
 母 :よかった。急に倒れちゃうから、びっくりしたのよ
エリス:ごめんなさい
 母 :はぁ。よかった。
 姉 :オーディと一緒にどこか行ってたんでしょ?
エリス:うん。夢見てたみたいな変な感じだけど
 姉 :おかえり、楽しかった?
エリス:うん。楽しかった。ただいま
 姉 :もう、心配したんだから。
 母 :はぁ。よかった。
 姉 :エリス、どこいってたのよ。
エリス:えっと、私が行ってたのは、なんていうか、・・・・・・あれはきっと、『たぶん異世界』
 
-end-

あとがき

2018/05/04.