真夜中のスノーマン

概要

――昨日、今年はじめての雪が降った。

キャスト

ゆうた  斎藤勇太(さいとう ゆうた)少年
スノーマン  雪だるま ※父と兼ね役可能
ペン吉  ペンギン
父  おとうさん ※スノーマンと兼ね役可能。

本編

***

ゆうた:(N)昨日、今年はじめての雪が降った。
ゆうた:真っ白なその雪は、風に舞うように、ふわふわと優しく。
ゆうた:だけどしっかりと降り続いた。
ゆうた:だから、次の日の朝、僕がカーテンを開けたら、
ゆうた:びっくりするくらい、積もってた。

ゆうた:ペンちゃん!見て!見てよ!
ペン吉:(鳴く)

ゆうた:おとーさん!

ゆうた:(N)僕は、寝ていたお父さんを無理やり起こして、

ゆうた:おとーさん!起きて!起きてってば!
父:ん? ん? どうした? ゆうた?
ゆうた:はやく! 外、すごいんだって!
父:何かあったのか?

ゆうた:(N)おとうさんを無理やり起こして、玄関の外へ出た

ゆうた:ほら、おとーさん!すごいでしょ!
父:おぉ
ゆうた:すごいつもった!
父:久しぶりに積もったなぁ!
ゆうた:うん!
父:よし、ゆうた! あったかくして出直すぞ!
ゆうた:え?あ?あ?
父:ペンちゃんもやるか?
ペン吉:(鳴く)
父:(わくわくして)ゆうた!お母さんに手袋とマフラー借りて来い!使わないのでいいから
ゆうた:ん? え?
父:よぉーし、着替えるぞー
ゆうた:え? あ? おとーさん?
父:ゆうた、
ゆうた:なに?
父:でっかい雪だるまつくるぞ!
ゆうた:うん!

ゆうた:(N)おとーさんは、うれしそうに、ゆきだるまをつくるって言った。
ゆうた:僕は、おかあさんに、使わない手袋と、マフラーを借りてきた。
ゆうた:外はやっぱり寒かったけど、だけど、空は晴れてて、天気がよくて。
ゆうた:あったかかった。

父:(遠)ゆうたー、先行ってるぞー

ゆうた:よいしょ
父:よいしょ
ゆうた:よいしょ
父:よいしょ

父:よーし、ゆうた!最後の仕上げだ。マフラーと、手袋
ゆうた:うん
ゆうた:よいしょっと
ゆうた:できたー! ん?
父:ん?
ゆうた:ん?
父:なにか足りないな?
ゆうた:あ!
父:ん?
ゆうた:おとーさん! 頭!
父:おお!そうか! バケツバケツ!
ペン吉:(鳴く)
父:お、サンキュー!ペンちゃん!
ゆうた:ペンちゃんありがとう!
父:よし、ゆうた、最後の仕上げだ
ゆうた:うん
父:よいしょ

ゆうた:(N)僕はおとーさんにかかえられて、最後の仕上げ。
ゆうた:バケツの帽子を、大きな大きな雪だるまの頭にかぶせた。

ゆうた:できたー!
父:できたな!
ゆうた:うん
父:大きいのできたな
ゆうた:うん。おっきいのできた!

ゆうた:(N)おとーさんの肩くらいまである大きさの、すっごいおおきいゆきだるまができた

父:ゆうた、がんばったな!
ゆうた:うん
父:ゆうた?知ってるか?
ゆうた:なに?
父:初雪でつくった『雪だるま』はな、夜、不思議な世界へ連れてってくれるんだ。
ゆうた:ほんと!?ほんと!?
父:さぁ?残念ながら、お父さんは連れてってもらったことがない
ゆうた:どうやったら、ゆきだるまさん、来てくれるの!?
父:ちゃんと朝ごはんを食べて、
ゆうた:うん!
父:ちゃんと昼ごはんも食べて、
ゆうた:うん!
父:晩御飯も、好き嫌いせずに食べて。
ゆうた:うー、うん。
父:ちゃんとお風呂入って
ゆうた:うん
父:ちゃんと歯ミガキして
ゆうた:うん
父:ちゃんと早く寝たらな
ゆうた:うん、わかった!
父:ちゃんといい子にして寝てたら、雪だるまさんが起こしてくれるんだって
ゆうた:わかった!

ゆうた:(N)おとーさんが教えてくれた。
ゆうた:ちゃんといい子にして寝てたら、ゆきだるまさんが起こしてくれるんだって。
ゆうた:そしたら、初雪でつくったゆきだるまさんが不思議なところへ連れてってくれるって。

ペン吉:(鳴く)クァーーーーーッ!
ペン吉:で?まんまと親にだまされたわけだ。あははははは
ゆうた:だまされたんじゃないもん。ペンちゃんには来てくれないよ?
ペン吉:寝なくていいのか?
ゆうた:うるさいなぁ、いまから寝るの!
ペン吉:ペンギンの数でも数えてやろうか?
ゆうた:いいよぉいらないよぉ。それに、ふつーは、ひつじだろ?
ペン吉:なんだよ? いいじゃねぇか。俺がペンギンなんだから。
ゆうた:もー、寝るっ!
ペン吉:ペンギンが1頭。ペンギンが2頭。ペンギンが3頭。
ゆうた:ねぇ? ペンギンって、『とう』だっけ?
ペン吉:いいから、はやく寝ろよ。雪男来ねぇぞ!
ゆうた:ん、もぉ〜!
ペン吉:ペンギンが4つ。ペンギンが5つ。ペンギンが6つ。
ゆうた:「つ?」「つ」でいいの?
ペン吉:うるせぇ。寝やがれ。
ゆうた:ん、もぉ!
ペン吉:ぺんぎんが7羽。ペンギンが8羽。
ゆうた:え?匹じゃないの?
ペン吉:ヒキじゃねぇよ。お前、バカだろ? ペンギンを何だと思ってやがるこのやろう!
ゆうた:あれ?
ペン吉:俺様が9羽。
ゆうた:あ、そっか、鳥か!
ペン吉:俺様がー、トゥ!(ペン吉がゆうたの布団の上に飛び降りる)
ゆうた:うぐはっ
ゆうた:いたいいたいいたい、ペンちゃん!飛び蹴りは無しでしょー。お布団あっても、痛いもんは痛いんだからね!
ペン吉:なんだよ、わめくなよ。早く寝ろって。
スノーマン:(窓をノックする音)
ゆうた:もー、ペンちゃんが邪魔するんじゃん!
スノーマン:(窓をノックする音)
ペン吉:早くねろよ。変な奴来ちゃうぞ。
スノーマン:(窓をノックする音)
ゆうた:ん?
スノーマン:(窓をノックする音)
ゆうた:ん?
ペン吉:ん?
スノーマン:(窓をノックする音)
スノーマン:(かすかに窓の外)開けてください
スノーマン:(窓をノックする音)
ゆうた:声した?
ペン吉:しねぇよ。
ゆうた:絶対声したって。
ペン吉:声なんかしねぇよ。
スノーマン:(窓をノックする音)
ゆうた:気のせいか。
スノーマン:(かすかに窓の外)開けてください。
ペン吉:ん?
スノーマン:(かすかに窓の外)開けてください、…寒いんで、…開けてください。
ゆうた:聞こえた?
ペン吉:お、おう。
スノーマン:(窓をノックする音)
スノーマン:(かすかに窓の外)開けてください、……寒いんで、……はやく、ここ、開けてください。
ゆうた:えーーーーー!
ペン吉:なんだ?アレ?
ゆうた:変なのきたーーーーー!

スノーマン:閉めて、閉めて、サブイ、サブイ、早く、早く閉めて。
スノーマン:うううう、さぶいさぶい。。。。。(少し落ち着いて)助かった。
ゆうた:うそぉ。
スノーマン:(くしゃみ)うー、マジで無いわ。今日の天気最低。くっそ、まじでありえんわ。
スノーマン:ねぇ? 昼間あんだけあったかかったのに、ねぇ?
スノーマン:……あ!おっと、失礼。このワタクシ、
ゆうた:(同時に)『雪だるま』
スノーマン:(同時に)『雪だるま』
スノーマン:(笑)よかった。ご存知で。
ゆうた:見ればわかるよ。
スノーマン:(咳払い)わたくし、雪だるま、あー、いえ、雪だるま改め、わたくし「スノーマン」でございます。
ゆうた:はぁ、
スノーマン:以後、お見知りおきを。どうぞよろしく
ゆうた:は、はぁ。
スノーマン:本日は、ワタクシをつくっていただきましたこと、まことに感謝しております。
ゆうた:はぁ。
スノーマン:いやー、こうして、なんといいますか、アレですね、動き回れるというのは、なんともすばらしい。
ゆうた:でも、さっきまで、寒いって。
スノーマン:あーあのねぇ、つーかね、言わしてもらいますけどね?
スノーマン:外に放置って、イマドキ無いで。無いで?こんな寒い中どないせぇっちゅうねん、なぁ、ホンマに。
スノーマン:犬かっちゅうねん。な?っつーか、最近じゃあ、犬でもねぇべ?な?
ゆうた:(ドン引きで)……え?
スノーマン:おっと、失礼失礼(咳払い)思わず本音が。
ペン吉:あ、そうだ。わりいな、気がきかねぇで。
スノーマン:あ、おかまいなく。えっと、あなたがゆうたさんでしたか?
ペン吉:ちげぇよ。俺はペン吉。見りゃわかるだろーがよ。
スノーマン:あ、失礼しました。えっと、あなたが?
ゆうた:はい。
スノーマン:そうでしたか、どうぞよろしく、ゆうじくん。
ゆうた:ゆうたです。
ペン吉:おい、ゆうた?
ゆうた:あ、そうだ。えっと、ペンちゃん?お客様だよ。なんて言うんだっけ?
ペン吉:まぁ、とりあえず、茶でも飲んでけや。
ゆうた:(拍手して)よくできましたー。よいしょっと
ゆうた:えっと、お茶いれますね。ちょっと待っててください。
スノーマン:ありがとうございます。
ゆうた:えっと、あったかいのにしますね?
スノーマン:あ、いえ、そこは『冷たいの』で。
ゆうた:あ。……はい。
スノーマン:すみません。熱いのは、ちょっと。
ゆうた:そうですよね。あはははは。
スノーマン:あははははははは。
ペン吉:まぁな、所詮、雪だしな。
スノーマン:……。
ゆうた:……。
スノーマン:……。
ゆうた:……。
ゆうた:どうぞ。お茶です。
スノーマン:ありがとうございます。
ゆうた:はい、ペンちゃんも。
ペン吉:おう。
スノーマン:(お茶をすする)
スノーマン:(大きくため息)生き返ります。ほどよいぬるさで。
ゆうた:よかった。
スノーマン:おいしいです、たつやくん。
ゆうた:ゆうたです。
スノーマン:ありがとう、ごさいます、
ゆうた:あー、いえいえ。
スノーマン:しょうたくん、
ゆうた:ゆうたです。
ペン吉:でさぁ?
スノーマン:はい。(ため息)
ペン吉:何しにきたの?
スノーマン:え?
ペン吉:何しに来たの?ユキオトコは。
スノーマン:そうなんです。大事なことをすっかり忘れてました。
スノーマン:お茶をのんで、ゆっくりしている場合じゃないですね。だいすけくん、
ゆうた:ゆうたです。
スノーマン:りょうたくんは、
ゆうた:ゆうたです。
スノーマン:空を飛びたいと思ったことはありませんか?
ゆうた:え?
ペン吉:俺へのアテツケか?
スノーマン:そんな。まさか。そんな風に考えているとおもいますか?
スノーマン:人間が持つ、最大の願いですよ。ねぇ?りょうへいさん?
ゆうた:ゆうたです。
スノーマン:空、飛びたくないですか?
ゆうた:えっと、飛びたい、ですけど。ねぇ? ペンちゃん?
ペン吉:……俺は……別に。
スノーマン:ペンちゃんさんも一緒に行きませんか?
ペン吉:え?……別に……いいけどよ。
ゆうた:でも、飛べるはずないよ。
スノーマン:大丈夫。
ゆうた:どうやってやるの?
スノーマン:どうやってやると思いますか?
ゆうた:え? でも、ボク、羽とか無いし。
スノーマン:私にもありません。
ペン吉:俺にはあっても飛べねぇよ。
ゆうた:じゃぁ……どうやって?
スノーマン:強く、強く願うんです。願えば、かなう。
ゆうた:……スノーマン。
スノーマン:いいですか、私の手を握って。
ゆうた:うん。
スノーマン:目を閉じて、強く願う。さぁ、ペンちゃんも。
ペン吉:お、おう。
スノーマン:空を、飛びたい。さあ、一緒に、
ゆうた:うん。そらをとびたい。
スノーマン:そう。もっと強く。ペンちゃんもさぁ、一緒に!
ペン吉:お、おう。
スノーマン:空を飛びたい。
ペン吉:そらを、……とびたい。
スノーマン:大丈夫。もっと強く強く願うんです。
ゆうた:もっと、強く、
ペン吉:願う……。
スノーマン:空を、飛びたい!
ゆうた:(同時に)とびたい。
ペン吉:(同時に)とびたい。
スノーマン:空を、飛びたい!
ゆうた:(同時に)飛びたい。
ペン吉:(同時に)飛びたい。
スノーマン:空を、
ゆうた:(同時に)飛びたい!
ペン吉:(同時に)飛びたい!
スノーマン:さぁ、行きますよ! ほら!

ペン吉:(N)体が、軽くなったような感覚が俺たちを包んだ。
ペン吉:風が吹いて、空へと舞い上がる。
ペン吉:水の中で自由に羽ばたく、それとはまた、ちょっとだけ、
ペン吉:だけど、ずいぶんと変わった感覚。
ペン吉:スノーマンを中心に、左側に俺。
ペン吉:右側にゆうた。
ペン吉:3人が並んで、はるか雲の上を目指す。
ペン吉:ふと見下ろした町中の夜景が、色とりどりの輝きを俺たちに見せてくれる。
ペン吉:その輝きが、だんだんと遠ざかる。
ペン吉:俺にとっては、少しだけ懐かしかった。
ペン吉:海の底できらめく、さんご礁のやつらに、少しだけ似ていた。
ペン吉:雲が近くなる。
ペン吉:雲をすり抜けて、はるか上空を目指す。
ペン吉:風をつかんで、もっと空高く舞い上がる。
ペン吉:大きな雲を突き破る。
ペン吉:目の前に、広がったのは、町の夜景。
ペン吉:いや、無数に輝く星空だった。
ペン吉:地上で見上げる星なんか、比べ物にならないくらい、はっきりと。
ペン吉:どんな言葉で表せばいいだろう。
ペン吉:どんな言葉でなら、つくろえるだろう。
ペン吉:どんな言葉も、事足りない。
ペン吉:どんな表現も、物足りない。
ペン吉:ただ、そこに星空があって。
ペン吉:俺たちが、ただ、ここにいる。
ペン吉:雲を眼下に見下ろして、
ペン吉:星に包まれた夜の闇に、俺たちは、風をつかんで羽ばたいた。
ペン吉:もっと高く。
ペン吉:もっと自由に。
ペン吉:もし、もう一度、願いがひとつかなうなら、
ペン吉:俺は、きっと願うだろう。
ペン吉:どんな言葉でも、表現できない、この感動を。
ペン吉:もう一度、もしも願いがかなうなら、
ペン吉:俺は、きっと、望むだろう。
ペン吉:もしも、願いがかなうなら、
ペン吉:もう一度、この星を見るために、
ペン吉:もう一度、この星空を、見るために、
ペン吉:もう一度だけ、
ペン吉:もう一度だけでも、空へ、この空へ、羽ばたきたいと。
ペン吉:俺は、願うだろう
ペン吉:強く、『空を飛びたい』と。

ペン吉:(N)本当に不思議な感覚だ。
ペン吉:スノーマンとつないだ手から、不思議な感覚が流れ込んでくる。
ペン吉:隣に並んだスノーマンと目が合った。
ペン吉:スノーマンが微笑む。
ペン吉:…………気持ち悪い。
スノーマン:どうだい? ペンちゃん?
ペン吉:ありがとよ、スノーマン。
スノーマン:よかった
ペン吉:どうだ? ゆうた?
スノーマン:どうだい? こうじくん?
ゆうた:さぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!
ゆうた:さむいさむいさむいさむいさむいさむいさむいさむい
ゆうた:さむいさむい閉めて、さむいさむいさむいさむい、閉めてさむいさむい
ペン吉:お、おう、とりあえず、ここ閉めるか
スノーマン:ちょっと、高く昇りすぎましたかねぇ?
ペン吉:だいじょうぶか?ゆうた?
ゆうた:大丈夫じゃない!なんでペンちゃん平気なの?
ペン吉:だって、ペンギンだし。
ゆうた:あ、そっか。ぺんぎんか。あ、そうだよねー、そりゃそーだよねー、フツーは南極とかにいるんだもんねー。
ペン吉:うん
ゆうた:って、無理!無理!無理!無理!無理!無理!無理!無理!無理!
ゆうた:準備くらいさせてよ。上着着ないと寒いじゃん!
ゆうた:パジャマだけしか着てないのに、外出るなんて無理だって。
ゆうた:っていうか、季節考えてよ?考えてみてよ?
ゆうた:冬だよ?冬! 雪降ったんだよ?
ゆうた:降ったっていうか、積もったんだよ?
ゆうた:知ってるよね? 知ってるよね?
ゆうた:知ってるよね?っていうか、あなた、雪だからね?雪だよ?(くしゃみ)
ペン吉:こりゃ、風邪ひくなぁ。
スノーマン:すみませんでした。私が、空へ…なんていわなければ。
ゆうた:(くしゃみ)
ペン吉:大丈夫か?
ゆうた:大丈夫じゃない。大丈夫なわけないじゃん。もういいよ、空なんて飛ばなくっていいよ、帰ってよ。
ペン吉:……。
スノーマン:……。
ペン吉:……。
ゆうた:帰ってよ!スノーマンなんか、つくらなきゃよかった……。
ペン吉:……ゆうた
スノーマン:……すみませんでした。
スノーマン:最後に、いいですか?
スノーマン:私は、ほんとうにうれしかったんです。
スノーマン:ゆきだるまなんて、最近見ないでしょ?
スノーマン:つくる人なんて、もう、いないですよ。
スノーマン:ちいさなゆきだるまなら、まぁ、きっと、いくつか……。
スノーマン:だけど、こんなに、こんなにおおきな雪だるまに……してくれるなんて。
ペン吉:……スノーマン。
スノーマン:がんばってつくってくれた。
スノーマン:楽しんでつくってくれた。
スノーマン:たくさんの笑顔で、わたしをつくってくれた。
スノーマン:わたしが生まれた瞬間は、たくさんの幸せがわたしのそばにありました。
スノーマン:それが、うれしかったんです。
スノーマン:だから……恩返しがしたかった。
ペン吉:……。
スノーマン:では、私は戻ります。元の世界に戻ります。所詮、私は、雪ですから。
ペン吉:待てよ、スノーマンよぉ。
スノーマン:……。
ペン吉:ゆうた、ほれ。ったく、ゆうた、言うことあんだろ?
ゆうた:スノーマン、……スノーマン……ごめん。ごめんなさい。
スノーマン:ひかるくん
ゆうた:ゆうたです
スノーマン:ありがとう。でも、私は戻ります。これ以上、迷惑はかけられません。ほら、
ペン吉:あー、でも、仕方ねぇな。
スノーマン:ありがとう、まいとくん。
ゆうた:ゆうたです。
ゆうた:でもね、スノーマン、ボク、こんなにおおきな雪だるまつくったの、はじめてだった。
ゆうた:だから、会えるかもしれない、来てくれるかもしれないって、おとうさんに聞いて、うれしかった。
ゆうた:スノーマンに会えたらいいなって。
ゆうた:スノーマンが連れてってくれる不思議な世界って、どんな世界なのかな? って。
ゆうた:最初はびっくりしたけど、だけど、楽しかったよ。きれいだったよ? 寒かったけど。
スノーマン:……れんたろうくん。
ゆうた:ゆうたです。
ペン吉:なぁ? スノーマンよぉ? もう、会えないのか?
スノーマン:初雪だけというきまりですから。それに、私は、今年の初雪です。来年は、また、別の初雪が、降るとは思いますが……。
ゆうた:……スノーマン。
スノーマン:それでは。 きっと、明日は晴れますよ。あったかい日になると思いますよ。ペンちゃんさん、ありがとう。
ペン吉:お、おう。
スノーマン:ありがとう、さぶろうくん、
スノーマン:さようなら
ゆうた:いっちゃったね(くしゃみ)
ペン吉:ほれ、さぶろう、風邪引かないうちに、寝たほうがいいぜ。
ゆうた:うん、明日、あったかくなるって。
ペン吉:風邪、ひかないといいな。
ゆうた:ありがと、ぺんちゃん。おやすみ。
ペン吉:おやすみ、さぶろう。
ゆうた:ゆうたです!
  ***
*――翌朝。
ペン吉:ゆうた、起きろよ
ゆうた:ん?んー?
ペン吉:カーテン開けるぞ
ゆうた:待ってよぉ、眠いよぉ
ペン吉:よっこらせっと
ゆうた:まぶしいよぉ
ペン吉:起きろ、ゆうた
ゆうた:ペンちゃん? 天気良い?
ペン吉:おう、ゆうた? こっち来てみろよ
ゆうた:なに?
ゆうた:あ。あー……。
ペン吉:スノーマンのやろう、
ゆうた:溶けちゃったね。
ペン吉:無残だな。
ゆうた:うん。
ペン吉:祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす……か。
ゆうた:ペンちゃん、賢いねぇ。
ペン吉:何事も長続きしねぇ奴のたとえさ。
ゆうた:それは違う気がする。
ペン吉:朝飯食うか。
ゆうた:うん。朝ごはんにする。おなかすいたよ、ペンちゃん。
ペン吉:おう。
ペン吉:なぁ、ゆうた?
ゆうた:なに?
ペン吉:もし、また、雪積もったら、来年も、雪だるま作るか?
ゆうた:雪、積もったらね。
ペン吉:あー、次、いつ積もるかね?
ゆうた:ねー。今年はもう積もらないんじゃない? 空、すっごい青いよ。
ペン吉:雲ひとつ無ぇな。
ゆうた:うん。
ペン吉:あー、腹減った。先行ってるぞ。
ゆうた:うん。
ゆうた:溶けちゃったね、スノーマン……。
ゆうた:(ため息)偏に風の前の塵に同じ、か。 (ひとえにかぜのまえのちりにおなじ)
ゆうた:ありがとう、スノーマン……。
ペン吉:朝ごはん、いくぞ!
ゆうた:今行くー。
ペン吉:早くしろよ、さぶろー!
ゆうた:ゆうたですっ!

   おしまい

あとがき

2025/1/22. 過去にボイスドラマ用として書いた作品でしたが、声劇用台本として加筆修正しました。